<span> 「反戦映画ではない」の真意はどこに “最後の教え子”が語る「高畑勲と『火垂るの墓』」</span>
高畑勲さん(撮影・寺越陽子氏、2016年)

『高畑勲と「火垂るの墓」 「幻の脚本」と「7冊の構想ノート」を読み解く』(新潮社)は、高畑勲監督が作家・野坂昭如の直木賞受賞作をアニメーション化した「火垂るの墓」(1988年)に、新たな光をあてる1冊である。この本の著者は、NHK首都圏局ディレクターの寺越陽子氏。彼女は本の元になったETV特集『火垂るの墓と高畑勲と7冊のノート』(2025年8月放送)を企画・制作した。(文中敬称略)

「高畑さんが亡くなるまで月に二度くらい会っていました」

「当時、戦後80年という節目の年に向けて、NHK局内で企画を募集していたんです。そのとき、高畑さんが戦時中の9歳の頃に、岡山で空襲に遭った経験を話していたことを思いだして、このタイミングに高畑さんが遺したものを見つめ直すことは意味があるのではないかと思いました。それで『火垂るの墓』を久々に見直したら、改めてすごい映画だと思いまして。そこからETV特集の企画を立ち上げていったんです」(寺越陽子、以下同)

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 現在はNHKで働く寺越陽子はかつて東北新社に所属していた頃、高畑監督の遺作「かぐや姫の物語」(2013年)の制作過程から劇場公開までの約2年半に密着し、『高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』(2014年)というドキュメンタリーを作り上げた。その過程で彼女は高畑監督と毎日顔を合わせ、雑談する間柄になった。

「2011年から単独でカメラを持って、『かぐや姫の物語』が作られていたスタジオジブリ第7スタジオに毎日通いました。でも、最初は高畑さんを遠くから見ているだけだったんです。高畑さんは、作り手が映画を作るのに悩んだり怒ったりする姿を捉えて、観る人に“物語”を提供するドキュメンタリーを毛嫌いされていたので、できるだけ邪魔にならないところから観察することから取材を始めたんです。そうして毎日通い続けるうちに、いつしか自然と雑談を交わすようになって、いろんなお話をさせていただくようになりました」

 始めは、いつどこで放送するかも決めずに「かぐや姫の物語」のドキュメンタリーの密着を続け、途中何度もやめようと思ったことがあったという。だが幸い、番組はWOWOWでの放送が決まり、翌年には大幅な再編集を経てDVDも発売された。

「それまでほぼ毎日高畑さんと会っていましたから、取材が終わって少し寂しい気持ちもありました。そんな2014年の年明けに、高畑さんの方からメールが来て、『ちょっと、会って話しませんか』と。作品を作っているときには、スタッフやプロデューサーとは緊迫する現場での付き合いになります。だからこそ、気軽に雑談できる相手として私がちょうどいい息抜きになったのかもしれません。映画も完成して一段落したし、ちょっと雑談でも、ということだったと思いますけれど。そこから2018年に高畑さんが亡くなるまで、月に二度くらいはお会いしてお話しさせていただきました。」

 ときには喫茶店で政治や映画について話し、ときには公園でぶらぶらする。また、一緒にクラシックのコンサートに行ったこともあるそうだ。それまでの「カメラを向け取材する人」とその「対象者」という関係から変化するにつれ、知識の宝庫ともいえる高畑監督との会話は、寺越陽子にとってはひたすら楽しく、かけがえのない時間になった。

「カメラを向けていたときには、いつ怒られるかと思って常に緊張していたんですけれど、それがなくなってからはいつも伸び伸びした気持ちでお会いしていました。例えば、私がNHKのEテレで放送された『課外授業 ようこそ先輩』のマキタスポーツさんの回(2015年)をディレクションしたときのことです。マキタスポーツさんが山梨の母校へ行って校歌をアレンジしたいと言ってきたんです。その話を高畑さんにしたら、『アレンジといえばモーツアルトですね』と言うんです。モーツアルトはシャンソンだった原曲を12の変奏曲にアレンジして、後に『きらきら星変奏曲』という曲を書いている。そんなことも私は知らなかったんですが、高畑さんに言われてモーツアルトのことを調べて、番組の中に様々にアレンジした『きらきら星』を挿入してみたりだとか。そんなふうに私が何かを作るときの相談相手のような存在になってくださいました。高畑さんの妻・かよ子さんは、『最後の教え子ね』と言ってくださいましたが、私としては『教え子』という感じではなくて、やはり最後まで雑談相手だったと思っています」

「ここは、あなたが払いなさい。」

 そんな彼女が、いつもの雑談相手とは違った高畑監督の“顔”を観た瞬間がある。

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