<span>【中止になった展覧会を再現】建築家・石上純也が「徳島県立新ホール」で描いた公共建築の未来図 </span>

【中止になった展覧会を再現】建築家・石上純也が「徳島県立新ホール」で描いた公共建築の未来図

2026年8月11日

 徳島県立新ホール計画の迷走が続いている。前知事のもと進められていた石上純也氏ら設計のホール案は、現職の後藤田知事の当選とともに事実上凍結。その後、市内の藍場浜公園に建設予定地を移して新ホール計画が立ち上がるも、設計施工者の公募は2回連続で不調に終わり、現在も事業者の選定を続けている。  7月11日より、石上氏のホール案にまつわる展覧会が徳島市内で開催されている。この6月に県からの要請で中止となった展覧会を再開催した形だ。新ホールのイメージ図とともに、あらためて設計に込めた意味と藍場浜案の問題点について石上氏に聞く。

大ホールの「花びらテラスの座席」の意味

 今回の展覧会のきっかけは今年3月に地元の建築家協会から呼ばれて参加した講演会でした。そこで、私たちの設計した他のプロジェクトとともに、徳島文化芸術ホール(仮称)についてお話しました。普通、建築家協会の講演会は業界の方が聞きに来るものですが、来場者の半分以上が一般の方。県民の方々の新ホールに対する関心の深さを感じました。県の情報発信が少なかったためか、実際に説明をするとホールの詳細を知らない方ばかりで来場者の方から大きな反響をいただいた。それならば展覧会を開いて県民の方たちに直接見てもらおうと、JIA(日本建築家協会)四国支部徳島地域会の主催によって先の6月の展覧会が企画されました。

 先の展覧会は県の要請で中止となりましたが、7月11日より徳島市内の別の会場であらためて展覧会を開催しています。会場は大きく2つに分かれ、一つは徳島の新ホールプロジェクト、もう一つは私の建築の思想が伝わるよう過去4つのプロジェクトにまつわる展示です。目玉は新ホール案の模型で、プロポーザル(設計者選定)段階とその後の実施設計が完了した段階の2種類を展示しています。実施設計をもとにしたものは5メートルほどの大きな模型で、客席やエントランスからホールへと続くホワイエの様子、エントランス広場など、建物全体が手に取るように分かる仕組みです。傍らには実施設計図が広げられ、映像と完成イメージなどが壁面を埋めています。

展覧会の様子 写真提供:石上純也建築設計事務所
展覧会の様子 写真提供:石上純也建築設計事務所

 7月11日の開場初日と2日目には私自身も会場を回りましたが、絶えず来場者があり、展覧会の開催に合わせて会場近くのあわぎんホールでトークショーをしたところ400人ほどが来場して会場の大会議室は満席状態。ここでも地元の方々の深い関心を感じました。会場も小さな場所ですが、7月末時点で2000人を超える来場数だと、実行委員会から聞いています。

 私たちのホール案は、大きく大ホールと小ホールで構成されています。大ホールでは花びら状の客席が、それぞれ独立したテラスの上に配置されています。一般的なホールでは、2階席の最前列は、舞台だけでなく客席全体も見渡すことができるため、演者と観客、さらには観客同士の一体感を感じやすい特徴的な席です。その代表例が、イタリア・ヴェネツィアのフェニーチェ劇場です。世界で最も美しい劇場の一つとも称されるこの劇場では、舞台を囲むようにボックス席が幾重にも積み重ねられています。収容人数は決して多くありませんが、客席と演者との距離が非常に近く、それぞれのボックスから舞台を間近に感じられるだけでなく、客席全体の熱狂が劇場全体へと伝播していく空間が生み出されています。

大ホール 写真提供:石上純也建築設計事務所

 一方、多くの観客を収容することを目的とした公会堂形式のホールでは、客席は効率よく整然と並べられています。そのため、舞台や客席全体を見渡せる「2階席最前列」のような特別な席は、ごく限られた一列しか存在しません。

 私たちが目指したのは、この二つの長所を併せ持つホールです。すなわち、フェニーチェ劇場のような濃密な一体感を実現しながら、公会堂のように多くの観客を収容できる空間です。そのために、客席を花びらのようなテラス状のスラブ(床板)の集積として構成しました。それぞれのテラスが独立しているため、すべてのテラスの縁が「最前列」となります。つまり、どの席からも演者を身近に感じることができ、観客同士の表情や熱気も視界に入り、会場全体が一体となって高揚する空間が生まれます。

 さらに、これらのテラスを立体的に積層して配置することで、客席数を確保しながらも、平面的な広がりを抑えています。その結果、舞台と客席との距離を大幅に縮めることができ、フェニーチェ劇場のようなコンパクトで濃密な空間の中に、演者と観客が一体となって熱狂を共有するホールを実現しています。

 音響面でも、各スラブの小口が音を拡散する反射板として機能し、複雑な花びらのような形状そのものがホールの音響設計と一体になっています。こうした形式のホールは今までどこにもなかったのではないでしょうか。また、すべての席で前の人の頭が被らないよう、各テラスの角度と高低差を丁寧に調整しています。「花びらテラス」は意匠的な効果を求めるだけではなく、徹底的に合理的な設計のもと成り立っているのです。

花びらテラス 写真提供:石上純也建築設計事務所

公民館であり、通学路であり、観光名所でもある建物に

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