<span>教養としての「向田邦子」入門① 『独りを慎む』を読む</span>

「フライパンから直接ソーセージを食べている――そう気づいたとき、ドキンとした」

33歳で初めてひとり暮らしを始めた向田邦子さんが、自由の解放感に浸る一方で、自分の中に潜む「誰も見ていないと、ルールを破りたくなる」衝動に気づいた瞬間を綴ったエッセイ「独りを慎む」。

収録作『男どき女どき』(新潮文庫)は、向田邦子の死後に刊行された最後の作品集でもある。かごしま近代文学館の学芸員・井上育子さんも、向田邦子の作品を初めて読む人におすすめしたいエッセイの一つとして、この「独りを慎む」を挙げている。

「自由」と「自堕落」は紙一重――。もちろん、いまの時代のコンプライアンスに照らし合わせれば、ここに記されている内容はさして目くじらを立てるような出来事ではないかもしれない。しかし、

人が見ていないと、してはいけないことをしようとしてしまう――。

という一文には、どこか現代の我々への“警告”として聞こえてしまうのはなぜだろう。それはやはり、「してはいけないこと」を犯してしまう心構えから逃れられていないからではないだろうか。すると、向田さんにとってのソーセージは我々にとって「何」だろうか。

「独りを慎む」という言葉は、日々世間では事件が起き、SNSでは炎上と誹謗中傷が続く令和の時代に読むからこそ、また違った重みをもってくる。

※以下は『男どき女どき』(新潮文庫)に収録されたエッセイ「独りを慎む」です。

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