<span>教養としての「向田邦子」入門② 『黄色い服』を読む</span>

向田邦子さんが7歳のときの頃の話。デパートの子ども服売場で、向田さんは両親から、「好きなものを1枚だけ自分で選びなさい。ただし今年はその1枚だけ」と言われたという。少女だった向田さんが必死に悩み、ようやく選び抜いたのは、黄色い絹でできた袖なしの服だった。

ところが、『寺内貫太郎一家』のモデルとも言われる厳しい父親は、その服がどうにも気に入らない。向田さんはそのシーズン、自分で選んだ一着を着るしかなく、居心地の悪い時間を過ごすことになる。

自分で選んで、自分で責任を取る――。

親が黙って課してきたその「掟」の意味を、向田さんが本当の意味で理解したのは、それから40年以上も経った後のことだったそうだ。

洋服の話を例に、向田さんが伝えようとしたのは、職業も、人間関係も、そして人生そのものも、「1シーズンに1枚、取りかえなし」だということ。人生を重ねてからこの一節を読むと、「黄色い服」の話は、いつしか自分自身がこれまで重ねてきた「人生の選択」を振り返るような思いにさせる。

かごしま近代文学館の学芸員・井上育子さんも、向田邦子を初めて読む人におすすめしたいエッセイの一つとして、この「黄色い服」を挙げている。少女時代の小さな出来事から、人生の選択という普遍的なテーマへと広がっていくこの一篇には、向田邦子の文章の魅力が凝縮されている。

※以下は『男どき女どき』(新潮文庫)に収録されたエッセイ「黄色い服」です。

注目の特集

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの記事

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの電子書籍

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの動画

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

ニュースレターを購読する

新潮QUEは、「問う力」を養っていくためのサブスクリプションサービスです。

無料登録する