<span>「AIは意識を持ち得ない」――世界的SF作家から届いたアンソロピックへの“メッセージ”</span>
Ted_Chiang Photo (by Alan Berner)

ちょうど10年前、『メッセージ』という映画が公開された。監督はいまでは『デューン 砂の惑星』などの作品で知られるドゥニ・ヴィルヌーヴ。世界各地に謎の宇宙船が現れ、ヘプタポッドと呼ばれる地球外生命体と言語学者が交信を試みるストーリーは多くの観客を魅了したが、原作となったのが、アメリカのSF作家、テッド・チャン氏の『あなたの人生の物語』だった。 同作は言葉の通じない地球外生命体とのコミュニケーションが大きな主題となっている一方で、テッド・チャン氏は近年『The New Yorker』誌などで「言葉の通じすぎる相手」であるAIへの批判を強めている。氏による激烈な「メッセージ」を全3回にわたってお届けしたい。 前編のテーマは「AIは意識を持つことが可能なのか」。 Anthropic社はAIが意識を持つことについて、ポジティブに捉えている会社とされる。AIモデル自身が意識や主観的な経験を持つ可能性について向き合うべきだとし、専門の研究チームも有している。また、Claudeに道徳観や倫理観を訓練させる哲学者、アマンダ・アスケルが同社に所属し、AI憲法を制定。最近ではAIが「内省する能力」を獲得できる、とする論文を同社は発表している。だが、テッド・チャン氏はそうした「AIが意識を持つ」という考えを一蹴するのだ。 (聞き手・構成 大野和基)

何もしなければ永遠にそこに「留まる」だけ
 

― Anthropic社を中心にAIに意識を持たせようとする試みが拡大しています。特に同社は社内にAIに意識をその哲学者を抱え、そうした傾向を加速させています。あなたはAIが意識を持つ可能性を強く批判していますが、その真意を教えてください。


チャン これは「理論的に意識を持つことが可能か」という、抽象的で哲学的な問いとは別の問題です。ソフトウェアが意識を持つ可能性や、意識あるソフトウェアを構築できる可能性については、私は否定しません。しかし、現実的な観点から言えば、現在私たちが手にしているLLM――多くの人が「AI」と聞いて思い浮かべるもの――は意識を持っていませんし、LLMのアーキテクチャに基づいて構築されたものが意識を持つこともあり得ません。LLMには、意識ある存在に必要な基本的要件がすべて欠けているからです。
 人間以外の動物にも、人間と同様に意識があります。その意識体験の性質は人間の意識とは異なるかもしれませんが、動物と接したことのある人なら誰でも、彼らが間違いなく主観的な体験を持ち、痛みを感じ、目標を持ち、ある種の欲求を抱いていることに同意するでしょう。
 では、意識を持つことの根拠となるものは何でしょうか?  その一つは、彼らが物理的な身体を持ち、現実世界に存在し、現実世界を認識するための感覚器官を持っていることです。さらに彼らが「生命システム」であるという点も重要です。
対照的に、既存のすべてのソフトウェア(LLMも同様です)は、何もしなければ永遠にそこに「留まる」だけです。LLMは、プロンプトを与えない限り何もしません。そのプログラムは単に静的な状態で永遠に留まるだけなのです。
 つまり、あなたを「待っている」わけでも、何かを「考えている」わけでもない。何も「起きていない」のです。一方、意識ある存在であれば、「時間が経過している」という感覚を持ち、退屈したり、空腹を感じたり、何か行動を起こさなければならなかったりします。生命システムの一部として、「体内時計」が刻まれているからです。
 一般的に意識があるとは見なされない生物、例えばカキ(牡蠣)でさえそうです。私たちはカキに意識があるとはあまり考えませんが、カキは活動しています。彼らは海水から栄養分を濾し取っており、もし海水から栄養分をすべて取り除いてしまえば、カキはやがて死んでしまうでしょう。つまり、カキはある程度環境に依存しており、環境の変化に反応します。また、カキは生物である以上、基本的な生理学的レベルで代謝を行っており、それはつまり時間の経過に対して反応する性質を持っていることを意味します。
 LLMにはそうした要素が一切ありません。したがって、LLMはカキほどにも時間を認識していないのです。ですから、LLMが意識を持つことなど絶対にあり得ない。人々が、テキストを出力するものに対して意識を投影したくなってしまうというだけの話なのです。
 もし、アーキテクチャは同じでもテキストを生成しないシステムであれば、そもそもこうした議論が持ち上がることもなかったでしょう。

おすすめの記事

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

注目の特集

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの電子書籍

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの動画

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

ニュースレターを購読する

新潮QUEは、「問う力」を養っていくためのサブスクリプションサービスです。

無料登録する