<span>生成AIがもたらすカテゴリー「AIスロップ」――世界的SF作家が予見する2040年の世界</span>
shutterstock/Pol Sole

このままAIが進化していった時に世界では何が起きるのだろうか。SF界最大の賞であるヒューゴー賞を4度受賞したSF作家のテッド・チャン氏は「テクノロジーが社会問題を解決する」「AIがこのまま進歩していく」という考えを否定し、将来、「AIスロップ(AIが大量に生み出す低品質なコンテンツ)」によって私たちの生活は悪化する、と予見するのだ。 (聞き手・構成 大野和基)

AIは過剰な熱狂の時代と捉えられるのか
 

― テクノロジーによってあらゆる社会問題を解決できるという傲慢な考えを、私たちは捨てるべきなのでしょうか。

チャン 間違いなくその考え方を捨てた方が良いと思います。
 エフゲニー・モロゾフ(ベラルーシ出身、“インターネット界の異端児”ことテクノロジー評論家)が提唱した「テクノ・ソリューション主義」という言葉があります。
 これは、あらゆる問題をテクノロジーで解決できると捉える考え方です。シリコンバレーやテクノロジー業界で働く人々にとって、当たり前な考え方ですが、テクノ・ソリューション主義が魅力的な理由の一つは、政策変更や社会構造の再構築といった他の解決策よりも、技術的な解決策の方がはるかに容易に思えるからだと思います。
他の解決策は実行が難しく、構造改革を伴い時間もかかります。技術的な解決策は即効性のある解決策を約束し、また、この解決策を売り込む(売りつける)人にとって莫大な利益になるという利点もあるため、多額の利益を得ることができます。

― コンサルティング会社のようなところですね。

チャン そうです。民間企業には、技術による解決策を推進する非常に強い経済的インセンティブがあります。しかも、その技術が期待どおりに機能しなくても、企業はすでに利益を手にしています。ですから、企業の立場からすれば、ほとんど痛手はありません。一方で、制度改革や社会的な解決策からは誰かが莫大な利益を得られるわけではありません。そのため、そうした解決策を同じ熱意をもって積極的に推進しようとする人を見つけるのは、どうしても難しくなります。

― AIが現在のペースで進化し続けるとしたら、2040年までに世界はどのように変わっていると思いますか。世界中の人々がもっと愚かになってしまうのでしょうか。あなたはAIの未来について、多くの懸念や危機感を抱いているように思えます。

チャン そうですね。ただ、私は将来について具体的な予測はしたくありません。そもそも、人間は未来を予測することが得意ではないですし、私自身もそういうことには特に関心がありません。むしろ私が言いたいのは、「AIはものすごい勢いで進歩している」という考え方そのものを、私たちはもっと批判的に、あるいは懐疑的に見るべきだということです。
 現在のところ、AI企業はどこも利益を上げていません(編集部註・アンソロピックは今年の4〜6月期に初めて営業黒字となり、オープンAIの2025年通期の最終赤字が385億ドルとされる)。つまり、仮にAIが進歩しているのだとしても、その「進歩」は、これまでのところ何ら経済的価値を生み出していないのです。そう考えると、本当の意味ではAIはそれほど進歩していないのかもしれません。そして、今回のAIブームも、やがてバブルが崩壊し、振り返ってみれば「また一つの過剰な熱狂の時代だった」と受け止められる可能性も十分にあると思います。もちろん、LLMがなくなるわけではありません。LLMはこれからも、私たちが向き合っていかなければならない存在であり続けるでしょう。
 長期的な影響として考えられるのは、例えばインターネットがもはや信頼できる情報源ではなくなることです。あるいは、インターネット全体のエコシステムが使いものにならなくなり、人々が情報を得るためにインターネットを利用しなくなる可能性もあります。それは十分にあり得ることです。さらに、AIが教育や人間が自ら頭を使って考える営みに長期的にどのような影響を及ぼすのか、という問題もあります。ですから、生成AIには実際にはごく限られた用途しかない、ということに私たちが気づく可能性もあると思います。そして生成AIは、コンピューターウイルスやスパムメール、あるいはネット詐欺と同じように、私たちが対処し続けなければならない新たな問題の一つになっていくのかもしれません。
 生成AIは「AIスロップ(AIが大量に生み出す低品質なコンテンツ)」を生み出すだけなのかもしれません。そして、私たちはその「スロップ」と付き合っていかなければならなくなるでしょう。それは結局、私たち一人ひとりの生活をより面倒なものにするだけです。それによって利益を得るのは、悪意を持った人たちだけだからです。スパムメールを大量に送りつけることで利益を上げている人はいます。しかし、それは社会にとって何の利益もありません。ただ、ほかのすべての人の生活を悪くしているだけなのです。

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