米中のAI(人工知能)覇権争いが過熱している。米国はバイデン前政権時代から中国への先端半導体輸出規制を始めたが、その目的は中国のAI開発を遅らせ、米国のリードを保持することにある。現時点で米国がリードしていることは間違いなさそうだが、2025年1月のディープシーク R1、2026年7月のKimi K3など、中国で高性能モデルが発表されるたびに動揺が走る。
果たして、米中AI競争は今後どのように推移していくのか。足元の話だけ見ると一進一退というか、米国の最新モデルが出れば「やはり米国が強い」と納得し、中国の最新モデルが出れば「米国一強が崩れた」と慌てふためくという、スポーツ観戦のようなハラハラドキドキを味わうことになろう。
そこで、この競争について時間のスケールを変えて考えてみたい。本特集のテーマである2040年にどうなっているのか、だ。
2026年現在の我々の目に映っているのは米中どちらが優れたAIを出すのかという「技術」の争いである。だが、2040年の未来はまったく違う世界にたどりついているだろう。考え得るシナリオは2つ、米国が優位に立つ「超知能誕生による技術競争の終焉」か、中国が優位に立つ「AI主導の新たな産業革命」のどちらかである。
前者ならば、私たちがやるべきことは映画『ターミネーター』のごとく、AIに抵抗するためのレジスタンス活動を展開するぐらいだろうか。だが、後者なら……。それを考えるためには、AI競争をめぐる4つの競争軸、すなわち性能、半導体、電力、アプリケーションのそれぞれを見る必要がある。
性能というものさし
ディープシークの登場でアメリカと中国はほぼ並んだ、Kimiでさらに肉薄した――そう騒がれてきた。だが冷静に見れば、アメリカは中国に対し、おおむね6〜18カ月のリードタイムを保っていると考えられる。有力なAIモデルを生み出すために必要な計算資源(コンピューティングパワー)は、アメリカの方がはるかに大きいからだ。
一方で、中国のAIの発展もめざましい。米国企業を単に追いかけるだけではなく、中国企業からも独自の技術革新が生まれている。
今年7月に発表されたMoonshot AIのKimi K3は一部のベンチマーク上では米アンソロピックのClaude Fable 5(6月9日公開)にほぼ匹敵する性能だ。ついに中国のAIは米国の約1カ月遅れにまで迫っている、逆転も近いのでは、などと騒ぎになった。
ただ、思い返してみると、2025年1月のディープシークR1も当時の米国の高性能モデルだったOpenAI o1(2024年9月にプレビュー版、12月に正式版)から約1カ月半遅れでほぼ匹敵する性能との触れ込みだった。しかし、米AI大手は開発完了からリリースまでの検証とブラッシュアップの期間を長くとっているとされ、実際の差はさらに大きいとみられている。著名なAI思想家のズヴィ・モーショヴィッツは、少なくとも4カ月、中央値で見ると6カ月ほど、中国が遅れているとの見方を示している。
問題は今後、その差がつまるのか、それとも離れるのか。
2040年時点でどちらの性能が上回っているのか。予測するのは難しい。というのも地道な改善による性能向上はどこかで行き詰まる可能性が高いからだ。そうなると、技術的課題を突破するブレイクスルーが必要になるが、それは残り少ないケチャップのようなもので、なかなか出ることはない。が、出るときは一気に出る。
グーグル中国トップを務めた李開復(リー・カイフー)は著書『AI世界秩序』(日本経済新聞出版、2020年)において、2010年代のディープラーニングのようなブレイクスルーはそうそう起こらない、としている。となると、後はデータの蓄積での勝負になり、そうなれば中国が勝つと予測している。実際には生成AIという次のブレイクスルーが起きて、この予想はひっくり返った。李は中国を代表するテック・ビジョナリーとして知られるが、その彼をもってしても2020年代の変革は予測できなかったのだ。
2040年時点でのAIの技術、性能は米中どちらが上かを予測することは、当たるも八卦当たらぬも八卦の占いのようなもので、誰にもわからない。