<span>「簗ちゃん」問題は高市人事の象徴――野党とのパイプ役を更迭しイエスマンを重用するセンスを問う</span>
高市総理がかばうことで結果的に針のむしろに立たされた簗農相(ロイター)

高市総理が簗農相の更迭を躊躇してきたのは、本当に彼の政策能力を評価しているためだという。一方で、仮に有能な部下であっても、総理に苦言を呈する者はあっという間に要職から外される。その結果、「早く簗氏を切ったほうが良い」と直言し危機管理できる側近すら周りにいなくなったのである。今回の問題は大臣個人の資質はもとより、高市総理の人事の稚拙さを露呈させた一件といえるのではないか。

簗本人は「大臣を辞めたい」

 3連休明けの国会は波乱含みのスタートとなった。

高市「簗大臣の地元での発言は、もうあれが事実であるとしたら本当に不適切なもので、本当に“ダサい”と思います」(12日 衆院予算委員会)

 この日始まった衆議院の予算委員会。

 高市としては悲願の食料品などの消費減税のための関連法案成立に向け、与野党に協力を求める場にしたかったのだろうが、審議の関心は簗和生農水大臣の“予算カット”発言に集中した。

 今年2月の衆院選挙で、選挙区(衆議院栃木3区)内で首長が自分を支持しなかった2自治体(那須烏山市・那珂川町)に対して、簗は道路予算を「大幅にカット」したと地元の会合で発言した。

 中野洋昌(公明党)「適材適所の人事をぜひ行っていただきたい」(12日 衆院予算委員会)

 野党側は高市の任命責任を追及し、簗の速やかな更迭を求めたのだ。

 簗は発端となった週刊誌報道の最初の段階では、発言の当否について「大臣就任前の一議員としての活動」であることを理由に回答を避けていたが、高市の意向を受けた木原稔官房長官から指示を受け今月5日に発言を認め謝罪した。

 国土交通省への予算削減の“圧力”については依然として「働きかけはしていない」と否定しているが、野党だけでなく与党内からも「大臣としてはもちろん、国会議員としてもアウトだ」(閣僚経験者)と厳しい声が飛び交い、簗を守ろうとする動きは皆無だ。ただ一人、高市を除けば。

 自民党関係者によれば、既に簗は「大臣を辞めたい」という意向を官邸側に伝えているということだが、高市がそれを認めなかったため簗は“針のむしろ”に追いやられているのだ。

「農政通」としての簗を高く評価

 なぜ高市はそこまで簗をかばうのか。

「(高市)政権も危機は感じているのだろうが、この手の危機対応はできないのだろう」(閣僚経験者)

「自分が閣僚としていったん決めた人事だから、外からの圧力で辞めさせたくないのだろう」(霞が関関係者)

 このように様々な見立てが飛び交うが、一つ確かなことは簗を農水大臣に起用したのは高市本人ということだ。

 旧安倍派に属した簗は、政治資金収支報告書に派閥のパーティの収入およそ1700万円を記載しなかったいわゆる裏金議員であり、高市が応援に入った先の衆院選では小選挙区で落選、辛うじて比例復活した議員だ。こうした“いわく付き”の議員を敢えて閣僚に起用したのは、高市の意志だ。

 簗の例は、高市がどういった人間を周囲に配置しているのかが良くわかる例と言える。

高市「とにかく私の大事な知恵袋の簗ちゃんが、いなくなったら大変です」

 テレビなどで繰り返し流されている映像の通り、先の衆院選で簗の応援に入った高市は簗を「簗ちゃん」と呼んでいる。永田町界隈では特別に親しい関係でもない政治家同士が“ちゃん”付けで呼び合うことはよくあるが、それを割り引いても、高市の演説の様子を見る限り簗とは近い関係であることが窺える。

 高市は人事を自分で決めたがり、他人の意見を聞かない。高市に一定程度の影響力がある政治家と言えば、義弟である鈴木俊一を党幹事長に押し込んだ麻生太郎副総裁くらいのものだ。

 高市が大臣や閣僚に起用するタイプにはいくつかのパターンがある。一つは、高市が党の政調会長時代に仕えた議員を重用する傾向だ。

 例えばアメリカとの貿易協議を担う赤沢亮正経産大臣は、石破茂前総理の側近のイメージが強いが、実は高市が政調会長だった2021年に政調会長代理として高市を支えていた。このことを高市が評価して経産大臣という重要ポストを任せていると言われる。そして同じ時期、簗も農林部会長として高市を支えていた。

 酪農などの農業が盛んな那須高原を選挙区に持つ簗にとって、農水行政は政治家としてキャリアアップするためには必須の政策分野だった。簗と親しい自民党議員も「彼は農業についてはよく勉強しているし、詳しい」と農政通であることは認めている。一方、高市は経済や産業政策、経済安保などの分野には強い関心を持っていたが農政には余り馴染みがなかった。こうした状況を簗は上手く利用して高市にアプローチを図ったという。

「農林水産行政について簗は(高市への)“ご注進”を怠らなかった」(自民党関係者)

 高市が総理になってからも簗のこうした姿勢は変わらなかったようだ。

 去年暮れ、高市に近い議員が集まった会合に高市本人が顔を出した時、簗は高市の傍らであれこれ耳打ちをしていたという。この現場に遭遇した出席者によれば「総理の間近で農林行政について云々話していた」ということだ。

 週末はほとんど公邸に籠もるだけで、表立った動きを見せない高市。高市と親交のある経済学者によれば「総理はよく勉強をされています」ということで、政策の勉強に時間の多くを費やしているようだ。

 いわば“ガリ勉”タイプの高市にとって簗は、自分の疎い農林水産行政をサポートしてくれる格好の手下だったのだろう。簗の応援で高市が訴えた「私の大事な知恵袋の簗ちゃんが、いなくなったら大変」という言葉には一面の真理があるのかもしれない。

「うん、うん」と頷くだけの秘書官たち

 簗のように、高市が欲する情報をこまめに提供するタイプに加え、高市が好むのは「イエスマン」タイプだ。

 高市は少人数で物事を決めたがる。

 その場合、合議に参加するのは官房長官の木原や、官房副長官の尾﨑正直、筆頭総理秘書官の飯田祐二ら限られたメンバーだ。いずれも高市にとっての「イエスマン」的存在だ。

 例えば、衆院議員でもある尾﨑は、政府を代表して国会対応について与野党と折衝をしなければならない立場であったが、先の国会ではいわゆる中傷動画問題をめぐって高市が予算委員会などへの出席を拒んだ際には何もできなかった。当時この件で官邸側と折衝に当たった与党関係者は、尾﨑の対応に不満を漏らす。

「総理が『出席したくない』と言えば、尾﨑は何も言えない。結局、強引に総理の出席を決めたのは国対委員長の梶山さんだった」

 また、永田町関係者は現在の官邸の様子についてこう語る。

「脇を固めているのは経産省。飯田は元経産次官だし、経済政策で発言力を持っているのは経産省出身の香山弘文秘書官だ。高市が与党議員や他省庁幹部と官邸で会う時も大概この2人が控えており、総理のご高説を“うん、うん”と頷きながら聞いている」

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