米国から始まったMeToo運動の波は、2018年春ごろには中国にも到達した。性的暴力の被害を訴えるという行為は、共産党が支配する中国ではひときわ政治的な意味合いを帯びた。MeTooは「国外勢力と結びついて体制転覆を企てている」という大仰な非難を浴びて弾圧の対象となり、女性の問題に長く関わっていた弁護士が「MeTooへの支持を公にするのは危ない」と怯えるほどだ。
そうした中の今年8月、中国でのMeTooを象徴する裁判で、原告側敗訴の判決が確定した。国営中国中央テレビ(CCTV)の著名アナウンサー朱軍氏(58)から性暴力を受けたと訴えた、周暁璇さん(29)が原告の裁判だ。周さんは、中国では「弦子」のネットネームで知られ、日本での伊藤詩織さんのような存在といえる。敗訴確定は日本ではほとんど報じられていないが、中国でも当局の規制によって報道はごく限られていた。
報道が少なかったのは、この結果がある程度、予期されていたためでもある。2020年12月に行われた1審の第1回口頭弁論では、100人以上の支援者らが北京市海淀区の裁判所前に詰めかけた。
12月の北京は寒い。裁判所に来られない支援者らは、ネット注文を通じて裁判所前の見知らぬ「弦子の友人」宛に、温かい飲み物や防寒着などを届けた。そうした支援は当局の統制へのささやかな抵抗でもあった。一方ネット上では、周さんへの支持やMeTooへの共感といった書き込みは軒並み削除されていた。支援者らが掲げたプラカードには「歴史の裁きを」という言葉もあり、この時点ですでに司法の救済に希望を持てる状況ではなかった。……