医療・ウェルネス

介護者が認知症当事者の視点に立って描く、切実さと苦悩

2021年6月6日

村井理子『全員悪人』(CCCメディアハウス)

 「食べ物がないんだよ」
 「携帯がなくなったんだよ」
 「お香典のお金がないんだよ」

 ──書いているだけであーっと小さく叫びそうになる。朝早くからかかってきて、切ってもまたかかってくる電話。「ヘルパーさんに頼んだから」「携帯はわたしが持ってるから」「お金は今度持って行くから」。伝わらないことを大声で繰り返す虚しさに苛立つ日々が1年以上続いた。そして先日、静かに終わった。

 84歳で死んだ父が認知症の症状を示し始めたのは、80歳前後だった。その数年間の出来事を書こうと思えば、いくらでも書ける。でもそれはあくまで、「強者」であるこちら側から見た話だ。村井さんは逆、つまり認知症当事者の視点に立った。徹底的に。それがこの『全員悪人』だ。

 語り手の「私」は、80歳の老女。彼女は、自分を置き去りにして変わってゆく周囲への怒りを吐露する。知らない女が家に入り込んできて勝手に料理をする、ケアマネという人が哀れな生き物でも見るような目で自分を見る、今家にいるお父さんは本当のお父さんではなく「パパゴン」というロボットで、偽物のくせに偉そうな態度をとる──……

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