医療・ウェルネス

見た目も甘さも砂糖に近い「D-アルロース」 メタボを防ぐ「希少糖」を知る

2026年7月11日


<span>見た目も甘さも砂糖に近い「D-アルロース」 メタボを防ぐ「希少糖」を知る</span>
D-アルロース(香川大学・国際希少糖研究教育機構より提供)

目下、「希少糖」の研究が進み、メタボや糖尿病の予防、さらには、がんの抑制効果もあることが明らかに。その道の第一人者である何(いず)森(もり)健(けん)香川大学名誉教授が、食と健康の常識を塗り替える期待の希少糖とその未来を説き明かす。【取材・文 ライター 松崎隆司】

食品だけでなく医療の分野でも注目される「希少糖」

「希少糖」とは文字通り、自然界にごくわずかしか存在しない糖の総称です。近年、食品だけでなく医療の分野でも注目されています。摂取によって食後血糖値の上昇を緩やかにする可能性や、脂質代謝を高める効果などが報告されており、新しい発見が次々に示されているためです。

 糖は大きく、ブドウ糖や果糖などの単糖類、単糖が2~10個程度つながった少糖類(オリゴ糖など)、そしてデンプンやセルロースのように10個以上が連なる多糖類に分類されます。

 一般に知られる単糖は数種類ですが、それ以外に希少な52種類の単糖が自然界から発見されています。これらが希少糖です。

 1990年頃までは、希少糖は入手自体が極めて難しく、研究が進まない状況が長く続いていました。

 そのような中で私は1991年、農学部の食堂裏の土壌から、果糖を希少糖の「D-アルロース」に変換させる「D-タガトース 3-エピメラーゼ(DTE)」という酵素を持つ微生物を発見しました。

 これを契機に研究が一気に進展し、香川大学国際希少糖研究教育機構の先生方のご研究で、これまで知られていなかった希少糖の特徴や可能性が次々に明らかになっていたのです。

 香川大学名誉教授の何森健氏(83)は1988年に香川大学農学部教授に就任。1991年から本格的に希少糖の研究を始め、研究のネックとなっていた希少糖の量産化に成功。その機能性を解明し、国の研究プロジェクトに採択された。「自然界に存在量が少ない単糖とその誘導体の総称」を「希少糖」と名付けたのも何森氏だ。

 何森氏の研究をもとに香川大学では現在、全学的な教育・研究組織として作られた国際希少糖研究教育機構を中心に80名の教授陣が64の研究テーマに取り組んでいる。

 では希少糖にはどのような効果があるのでしょうか。希少糖の中で最も研究が進んでいる「D-アルロース」(以下アルロース)は、見た目も甘さも砂糖に近いのですが、カロリーはほぼゼロ、摂取しても多くが体内で吸収されずに排泄される。だから太りにくい甘味料の一つです。

 それだけではありません。糖尿病や肥満(メタボリックシンドローム)の予防にも大きな期待が寄せられています。食後の血糖値上昇抑制作用や脂肪燃焼の促進作用があるからです。

 食事で炭水化物(デンプン)や砂糖を摂取すると、血糖値が上がります。脳と筋肉が必要なエネルギーを確保するために不可欠な仕組みですが、糖を過剰に摂取すると高血糖になり、糖尿病予備軍になる危険性を高めます。

 また、余ったブドウ糖は腸で吸収された後に中性脂肪に変わり、体内に蓄積されると肥満につながります。生活習慣病の予防には、適正な血糖値を保つことが大切なのです。
 香川大学が健康な人20名(20歳から39歳までの男性11名、女性9名)に対して行った試験では、75グラムの糖を溶かした飲み物にアルロース0グラム、2・5グラム、5・0グラム、7・5グラムをそれぞれ加えたものを、空腹の状態で飲んでもらいました。飲む直前と、飲んでから30分、60分、90分、120分時点の計5回採血を行ったところ、特に5・0グラムと7・5グラムで血糖値がしっかり下がることが確認されました。

食品だけでなく医療の分野でも注目される「希少糖」

 なぜ血糖値の低下が認められたのか。具体的には、アルロースに以下のような作用があるからだといわれています。

(1)消化酵素の抑制 消化酵素の機能を抑制し、一緒に摂取したデンプンや砂糖などの糖質の吸収を緩やかにする。
(2)小腸のホルモンの分泌促進 インスリンの働きを助けるホルモンの分泌を促進し、血糖値を上がりにくくする。
(3)血糖を調整する細胞の保護 インスリンを分泌する細胞を酸化ストレスから守る。
(4)肝臓が糖をスムーズに取り込めるようサポート 肝臓に糖を取り込む酵素の働きを活性化し、食後の血糖値上昇を緩やかにする。

 食事でデンプンや砂糖を摂取すると、消化によって単糖であるブドウ糖や果糖に分解され、小腸の腸内壁を経て血液中に取り込まれ、血糖値が上がります。

 ところがアルロースを一緒に摂取すると、デンプンや砂糖を分解する消化酵素が抑制され、さらにアルロースが糖の吸収を物理的にブロックします。いわば、糖の吸収を阻害する「ガードマン」の役割を果たしてくれるのです。

 それだけではありません。アルロースは小腸の細胞を刺激することで、「GLP-1」というホルモンの分泌を高めます。GLP-1は満腹感を促し、インスリンの働きを助けるホルモンです。その結果、血糖値が急に上がるのを防ぎ、食欲を抑える方向にも作用します。

 このほかアルロースにはインスリンを分泌する膵臓のβ細胞を守る働きがあると考えられています。高血糖が続くと細胞の中でストレス物質(活性酸素)が増えて細胞が弱りますが、アルロースはこのストレスを減らし、β細胞が本来の働きを保てるようにサポートします。また、肝臓では糖を取り込んで処理する酵素を働きやすくするため、食後の血糖値が上がりにくくなるとされています。

 アルロースは健康な人にだけ効果があるわけではありません。糖尿病患者にも効果をもたらすことが確認されています。

 香川大学医学部附属病院では、入院中の20~80歳の2型糖尿病患者20人を「ふつうの糖尿病病院食」を摂るグループと「アルロースを加えた糖尿病病院食」を食べるグループの二つに分け、臨床試験を行いました。この試験では、1食につきアルロースは8・5グラム使用しています。これまでの臨床試験で有効性が示された量であり、逆に飲みすぎると下痢をするおそれがあります。病院食として無理なく使える範囲で、十分な効果が期待できる量としました。

 被験者には1日3回の食事を2日間食べてもらい、腕につけたセンサーで血糖値の変化を調べました。その結果、アルロース入りの食事をしたときは、食後の血糖値の上がり方が明らかに緩やかになり、体が必要とするインスリンの量も少なくてすむことがわかりました。

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