「21世紀の米国版エコノミック・ステイトクラフト」の5原則
財務長官に就任したばかりのスコット・ベッセント氏が2025年3月にNYエコノミック・クラブで行った講演は、その後の「ドル離れ」を象徴する出発点となった。講演で同氏は、米国が長年担ってきた役割、すなわち軍事・安全保障の提供、世界の余剰供給の吸収、そして国際経済の最終需要国としての機能について、もはや持続可能ではないと主張。そのうえで、ドナルド・トランプ政権が関税を梃子に「国際経済システムの再構築プロセスを開始した」と宣言し、冷戦後の新自由主義的な国際秩序に終止符を打つ方針を示した。講演後、政権は次々と関税措置を発動したが、こうした政策転換は市場に摩擦を生み、「ドル離れ」
「ディベースメント・トレード(通貨価値の劣化を見込んだ取引)」が市場のキーワードとして定着していった。
しかし、一転してドル高が進行している。中東情勢悪化に伴う「有事のドル買い」から、米国とイランが6月17日に60日間の停戦延長で合意した後は米国の利上げ観測が台頭したためだ。
米5月雇用統計など経済指標がドル買いを支えるなか、決定打となったのが6月16-17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)だ。ケビン・ウォーシュ連邦準備制度理事会(FRB)議長の初登板で、ドットチャートは年内1回の利上げ予想へ転換し、ウォーシュ氏自身も「物価の安定」を強調。9月利上げ織り込み度は70%超まで急伸し、ドル・インデックスは6月24日に101.80と2025年5月以来の水準へ切り返した。市場のインフレ期待を表す米10年物ブレークイーブン・インフレ(BEI)率は、イラン戦争後の上昇を打ち消しており、市場はインフレを抑制するFRBに信頼を寄せ始めたとみられる【チャート1】。
【チャート1:米5年物、米10年物BEIの推移】
ベッセント氏は、この構図を歓迎する立場を明確化している。6月23日、約1年前に国際経済システムの再構築を宣言した時と同じNYエコノミック・クラブに登壇したベッセント氏は、米国の主権と経済安全保障を回復させるための「21世紀の米国版エコノミック・ステイトクラフト」として5つの原則を提示。その4つ目の原則として、基軸通貨としてのドルを「国家戦略の中心的な手段」と位置づけている【チャート2】。