<span>世界の仕組みを理解してこそ「問い」を立てられる――AI時代を生き抜くサバイバル術</span>
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特集|社会

Vol. 1

世界の仕組みを理解してこそ「問い」を立てられる――AI時代を生き抜くサバイバル術

2026年8月17日

今年の5月18日に「新潮QUE」を立ち上げました。 この数年、日本のメディア業界では「サブスク制の媒体」が注目されてきました。動画コンテンツであればネットフリックスやアマゾンプライムビデオなどが有名ですし、新聞業界であれば、日経新聞電子版がその最たるものです。出版業界でも主にジャーナリズムやニュース系メディアで、このビジネスを始める会社が増えてきました。しかし、その多くは従来の雑誌を「デジタル化」しているだけというものが多いのが実状でした。 新潮社の雑誌を単にデジタル化するだけではなく、もっと幅を広げて、読者の方に有益な情報や教養を届けることができないか――。そうした思いから、新潮社のノンフィクションや人文系コンテンツを横断的に購読できる総合サイトを目指し、スタートしたのが新潮QUEです。月額2400円のプレミアムプランをご契約いただければ、週刊新潮を電子書籍として発売前日に読めるほか、同誌や新潮QUEオリジナルの記事、新書や選書などの電子書籍や教養動画・音声コンテンツを無制限に購読できます。 新潮QUEの大きなテーマは「問う力」です。QUEはQUESTIONやQUERY、QUESTのQUEであり、「Quest for the Unseen Essence」(見えない本質を求めて)という意味も込めています。 AIが台頭したいま「問う力」が必要だと世間ではよく言われますが、果たしてその「問う力」とは何なのか。橘さんのインタビューからその概念を分解しながら考えます。 (聞き手・構成 新潮QUE編集長 林健一) ※「波2026年7月号」掲載の「「新潮QUE」ローンチ記念特別インタビュー いま、「問う力」のために―「新潮QUE」はなぜ必要なのか 橘玲インタビュー」の一部を再編集しました。

アメリカで起きる極論同士の対立

――なぜいま、新潮QUEのようなデジタルメディアが必要なのか。メディアが抱える“不都合な真実”を長年指摘してきた、橘さんのお考えをお聞かせください。

 「日本のメディア業界はいま分水嶺に立っています。アメリカで起きたことは2〜3年のタイムラグを置いて日本でも同じことが起きますが、そのアメリカのメディアがいま大きく変わりつつあります。一言で言うと、いままで以上に個性の強い独立系のメディアが直接読者とつながるようになってきているんです。それに気づいたのは、昨年11月に『The Free Press』というウェブメディアが、ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長に当選した直後、ピーター・ティールのインタビューを掲載したときです。なぜこんなネット新聞にティールのような大物が登場するのか、不思議に思って調べてみたら、『The Free Press』はニューヨーク・タイムズの元記者が2021年に立ち上げた月額 10〜12ドルのサブスク媒体で、わずか4年で大きな影響力をもつようになっていて驚きました」

――『The Free Press』はSubstackと呼ばれる、誰でも有料ニュースレターを作れる外部サービスを用いて創刊されたそうですね。Substackは日本で言うと、noteのようなものでしょうか。その後、メディアとなり、昨年時点で17万人強の会員がいるそうですが、なぜそれほど人気のある媒体になったのでしょう。

 「『The Free Press』の立ち位置は〝反ウォーク・反キャンセルカルチャーのリベラル〟、つまり中道リベラルです。アメリカ社会は共和党の保守と民主党のリベラルの対立で理解されますが、近年は両者の分断があまりに激しくなって、新聞やテレビなどの主流メディアもそれぞれの政治的立場に引きずられるように右と左に『極端』に振れてしまった。例えば、気候変動について言えば、左派はこのまま気温が上昇して人類は滅亡するという『マッドマックス』的世界を語り、一方の右派は地球温暖化など起きていないと主張する。これは不毛な対立で、近年では確かにCO2排出量が増加し、気温は上昇しているけれども、それに適応できる可能性は十分にあるというのが研究者の合意になってきています。人種問題やトランスジェンダー問題でも同様の極論同士の対立が起きていて、結果的に中道リベラルの人たちが読むメディアがなくなってしまった。こうして右と左の中間地点に大きな読者マーケットが生まれ、そこを『The Free Press』のような独立系メディアが開拓したのです。今のアメリカでは、これまで新聞に寄稿したり、テレビのコメンテーターになっていた知識人も、Substackで自分のメディアを作って、動画やポッドキャストなどを活用しつつ、読者に直接アプローチするかたちに変わってきています」

――アメリカで起きたことは日本にも起きる。先のお話からすると、日本でも同じ現象が起きるということなのでしょうか。

 「日本はアメリカほど極端な文化戦争が起きているわけではありません。メディアの対立もアメリカに比べれば緩やかで、オールドメディアに対する不満が高まっているといっても、そういう人たちが大挙して、Substackと似たサービスともいえるnoteに言論の場を求めているわけでもない。そうした中で、新潮QUEのように、新聞やテレビのような大メディアでも、個人メディアでもない、出版社が提供するサブスク媒体が新しい言論のハブになれるのではないかと期待しています」
 

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