連載|経済・ビジネス

Vol. 1

AIを活用しても「悩み」の値段は下がらない

2026年8月10日


<span>AIを活用しても「悩み」の値段は下がらない</span>
(Lissmaster/Shutterstock)

AIをめぐる議論は「何ができるか」「人間の仕事を奪うのか」といった性能や倫理面での指摘に偏りがちだ。一方で、企業や私たちが本当に向き合うべきなのは「AIを導入していくら得をするのか」という損得の問題ではないか。はてな、スマートニュースで広告事業を立ち上げ、現在は自らAIで経営と開発を実践する川崎裕一氏が、「悩みに値段をつける」という視点から、AI時代の仕事と経営を考える。

問われていないのは「損得」

 AIをめぐる議論を眺めていると、ひとつ気になることがある。

 語られているのは、たいてい二種類のことだ。ひとつは、できるかできないか。どこまで賢くなったか、何ができるようになったか、人間を超えたか。もうひとつは、善いか悪いか。仕事を奪うのか、判断を委ねてよいのか、誰が責任を負うのか。

 性能と倫理。この二つで、議論のほとんどが埋まっている。

 抜け落ちているのは、三つ目だ。損得である。

 これは素朴な問いのようでいて、答えられる人がほとんどいない。AIを導入した企業の担当者に聞いても、削れたコストと増えた売上を指し示せる人は少ない。稟議で効果を問われて言葉に詰まる。便利なのは間違いないのに、その便利さが経営や収益のどこに表れているのかを言えない。

 この連載では、そういう実利を扱う。きれいな話や大きな話はよそでいくらでも読める。ここで書きたいのは、誰のどんな悩みに、いくらの値段がつくのか、という話だ。その第一歩として、まず「損得」から入りたい。

 なぜ損得から入るのか。損得を語れないというのは、感覚の問題ではなく、技術の問題だからである。値づけという技術を持たない者は、損得を語れない。語らないのではなく、語る道具を持っていない。そして道具を持たないまま新しい技術を迎えると、何が起きるか——私はそれを、繰り返し見てきた。

おすすめの記事

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

注目の特集

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの電子書籍

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの動画

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

ニュースレターを購読する

新潮QUEは、「問う力」を養っていくためのサブスクリプションサービスです。

無料登録する