看過できないコメ余り
「鈴木さんは交代だな」
備蓄米の買い戻しを当面見送るというニュースが流れた7月末ごろ、ある政府関係者はこうつぶやいた。高市が9月までに行う見込みの内閣改造で弾かれるという意味だ。
鈴木は東大を卒業後、農水官僚を経て、2012年の衆院選山形2区に自民党から出馬し、初当選した。44歳ながら既に当選6回。昨秋の高市内閣発足時に農水相に就任した。
党関係者は「コテコテの農林族」と評する。前任者の小泉進次郎が進めた消費者重視の農政を、生産者寄りで価格を安定させる方向へ早々に転換した。
ところが、昨年まで続いた品薄と価格高騰の「令和の米騒動」から一転、今年は逆の事態が生じている。
主因はコメ余りだ。今年6月末の民間在庫量は過去最大の243万トン。適正水準とされる180万~200万トンを大きく上回る。
政府備蓄米を安値で放出したため、高値の25年産米の消費が滞り、大幅増産されていたことも相まって在庫が積みあがった。政府関係者は「米騒動の余波で消費者の『コメ離れ』が進んだことも影響した」と解説する。今年に入ってから店頭価格は下落基調にあり、秋に新米が出回れば、この流れは加速する。
実際、26年産米の相場は急落の様相を呈する。本格流通する前の早場米を巡り、九州や四国で前年を2~4割ほど下回る集荷価格が付けられた。農協(JA)が農家に前払いする金額で、その年の米価の先行指標にもなる「概算金」は今後各地で順次決まるが、同様の結果になるとみられている。
「農家はひどい状況だ」
農林族のあるベテランは嘆息する。JAが集めるコメは全体の3割。残りは市場原理にさらされ、買い叩きの対象となる。
水田経営は厳しい。「時給10円」。国の農業経営統計調査を基に、専業農家の実情を指してこう言われたことさえある。
資金繰りに苦しむ農家は投げ売りせざるを得なくなり、そうなれば翌年以降の再生産が困難になるケースも生じる。農村の荒廃は食料不足や社会不安を引き起こす。水田は自民党にとって「票田」でもある。
「買い戻し」前の内閣改造で鈴木大臣は……
そこで需給を調節しようと浮上したのが、政府備蓄米の買い戻しだ。
6月11日、鈴木は密かに首相官邸を訪れ、高市に面会した。現在の備蓄量が目安の100万トンに大幅に足りない32万トンにとどまっている点を説明。高市が関心を示しそうな「食料安全保障」をキーワードに買い戻しを提案した。
「物価高対策をしようという時にコメ価格をつり上げるなんて!」
高市は憤怒の表情を見せたという。思い通りにならないと、人事権で抑え込もうとする癖が高市にはある。鈴木はほうほうの体で退出。農林族の先輩で小泉の前任でもある江藤拓に「どうしましょうか」と相談した。