投資家の資金を奪い合う米長期債とAI社債
「ジャネット・イエレン財務長官は、過去の標準的な水準を1兆ドル以上も上回る短期債を発行し、割高な短期借り入れに依存することで米国債市場をゆがめた」――スコット・ベッセント氏は就任前の2024年11月、イエレン氏を批判した。短期債への依存を強めれば、長期債の増発を避けて長期金利を抑えやすくなる半面、政府は割高な利払いと頻繁な借り換えを迫られる。ベッセント氏の批判は、目先の金利抑制と引き換えに将来の財政負担を膨らませる、短期債偏重の弱点を突いたものだった。
国債買い戻しプログラムは、イエレン時代の2024年5月に導入された。財務省が流動性の乏しい既発債を市場から買い戻して消却(バイバック)し、売却の受け皿を設ける制度で、当初は各年限を対象に少額を定期的かつ予見可能な形で実施する設計だった。
それから約2年を経て、ベッセント氏率いる財務省は8月19日、残存期間10~20年と20~30年の買い戻し上限を1回当たり20億ドルから少なくとも40億ドルへ引き上げると発表した。9月9日から11月4日まで適用し、同日の四半期国債発行計画(QRA)で、その後の長期債買戻しの規模を改めて示す。対象となる既発長期債に財務省の買い需要が加わるため、流動性が改善し、長期金利の上昇圧力を和らげる効果が見込まれる。
発行計画の変更ではなく、買い戻し増額を選んだのにも理由がある。8月5日に発表した直近のQRAから2週間で発行額を変更すれば、「定期的かつ予見可能」という債務管理の原則を損なう。既存制度の増額は、計画を維持したまま長期債の需給に働き掛けられる数少ない選択肢だった。
長期ゾーンに照準を合わせたのは、市場が警報を発していたためである。原油高に伴うインフレ懸念から、米30年債利回りは8月18日に5.337%と2007年以来の水準へ上昇。フォワードガイダンスの縮小を進めるケビン・ウォーシュ連邦準備制度理事会(FRB)議長の方針もあり政策運営の不透明感が強まるなかで、連邦債務の40兆ドル突破も重なった【チャート1】。翌19日には160億ドルの20年債入札を控え、入札不調が長期債売りを加速させるリスクも意識されたに違いない。