<span>なぜ円高効果がここまで限定的なのか “痛み止め”でしかない「為替介入」の基礎知識</span>
片山さつき財務大臣

7月末に行われた日米両政府による円買いの協調介入は、「約30年ぶり」という華々しさに反して、円安の是正に至るような効果は得られていない。その本質を理解するためには、介入のメカニズムを理解しておく必要がある。

円高への反転がみられなかった「協調介入」

 日本の通貨政策は政府(財務省)の管轄である。ただし、通貨政策は日銀が管轄する金融政策と密接だから、実務上、政府と日銀が一体となって通貨政策を行うことになる。金利は為替レートの主な決定要因の一つだが、長期金利は景気動向に加えて財政状況に大きく左右されるし、短期金利は金融政策で決まるため、その点でも政府と日銀は密接だ。

 7月末に日米両政府によって円買いの協調介入が行われた。それまでも日本単独での円買い介入は度々行われていたものの、円買いでの協調介入となると、1998年に日本が金融危機に陥って、円安が急速に進んだ局面以来のことだ。当時の協調介入は、相場が円高に反転するきっかけとなったが、今回の協調介入はそうなっていない。

 そもそも、為替介入はどのように行われるのだろうか。為替介入の権限を持つのは政府で、実務を担当するのは日銀である。言わば政府は為替介入の依頼人であり、日銀がその代理人となる。日銀が東京市場で円買い介入を行う場合、日銀とその依頼を受けた邦銀や外銀が、市場から円を買い集める。そのためには、円を買う資金が必要だ。

 政府が円を買うための資金は、外国為替資金特別会計(外為特会)と呼ばれる特別会計に積み立てられている。これはいわゆる外貨準備(政府が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用する準備資産)に相当し、日本はそれを主に米国債の形で保有している。

 政府は円買い介入をするにあたり、そのための資金を米国債の売却で調達する必要がある。そうして得たドル資金を用いて、日銀が外為市場で円を買うわけだ。実務上、政府が保有する米国債は政府の銀行である日銀が管理するが、実際の現物は、米FRB(連邦準備制度理事会)にて金融政策の実務を担うニューヨーク連銀に保管されている。

米債の金利上昇を回避したい米国政府

 政府の指示を受けた日銀はニューヨーク連銀に対して、米国債の売却を依頼する。そして、ニューヨーク連銀を通じて得たドル資金を用いて、日銀が邦銀や外銀とともに円を購入する。ドル円レートは円高に向かうが、恒常的な介入ではないため、円高効果は一時的となる。円安そのものの構造的な原因が解消されない中では、その一時的な円高がかえって投機筋による円売りを誘う“呼び水”にさえなる。

 では介入の規模や頻度を上げられるかというと、そうは簡単にはいかない。外為特会に積み立てられている資産は有限であるため、使い果たせば円買い介入は不可能となる。それに、米国による理解が得られない。なぜなら、円買い介入のためのドル資金を得る目的で米国債を売ると、それが米国の金利上昇につながる可能性があるためだ。

 実際、日本の政府による米国債売却の思惑が、米国の金利急騰の一因になったこともある。かつて1997年6月、当時の橋本龍太郎首相が、コロンビア大学にて行った講演で「米国債を売却する誘惑にかられたことが何度かある」とジョークまじりに発言したが、当時、国際金融市場が不安定だったこともあり、米債売りの材料にされた。

 米政府(米財務省)は、基本的に、日本の円買い介入で米国の金利上昇が促される事態を回避したい。当然、日本もそれを理解しているから、両国間で円買い介入の実施に当たり、様々な調整がなされて然るべきとなる。ただし、日本の円買い介入だけでは、その規模が限定されるため投資家の円売りモメンタム(相場の勢い)を変えることができない。

 そこで重要となるのが、米国が円買い介入に明らかな協力姿勢を示すことだ。それが「協調介入」ということになる。米財務省もニューヨーク連銀を通じてドルを売って円を買うなら、日米両政府が本気になって円安の是正に取り組むと投資家が判断し、モメンタムが円買いに転じると期待されるわけだ。しかし今回は、円安の是正には至っていない。

介入効果を弱めた「米国のご都合主義」と「日本のハト派姿勢」

 今回の協調介入の効果が弱めな理由は、主に二つあるだろう。

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