「不満をぶちまけた」という「片山財務相との2時間」
日本の財政・金融政策が、米国にとって「日本だけの問題」ではなくなった。スコット・ベッセント米財務長官が、日本銀行(BOJ)の利上げや高市早苗政権のリフレ政策に対して踏み込んだ言及をする背景には、円安だけでなく、日本の金利上昇が世界の資金フローを変え、米国債市場に跳ね返るとの警戒がある。
伏線は2025年からあった。同年10月の訪日時、ベッセント氏は片山さつき財務相との会談後の米財務省声明で、アベノミクス導入から12年が経ったとして適切な金融政策を求めた。ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙によれば、今年5月の訪日時には、片山氏との約2時間の会食で高市政権の積極財政と低金利志向が資本流出と円安を招いていると不満をぶちまけた(unloaded his frustration)。日銀の独立性や、首相周辺の一部経済ブレーンが円安のメリットを説くことに疑問を呈した。
日銀人事も不信を強めた可能性がある。高市政権は今年、浅田統一郎氏と佐藤綾野氏というリフレ派とされる2人を政策委員会審議委員に起用。ベッセント氏には、正常化を後退させかねない布陣に映った。
財政面でも懸念は強まった。高市政権は骨太方針で成長投資に上限を設けない枠組みを導入し、2027年度の概算要求は143兆円前後と過去最大に膨らんだ。一方で、長期金利は急上昇した。
ベッセント氏は8月下旬以降、連鎖的に政策シグナルを発してきた。高市政権の積極財政が修正されず、円安と債券安として表れたことが、発言をより直接的なものにした一因とみられる。8月20日のCNBCでは、日米協調介入を巡り、米財務省は「非対称的(市場が把握していない)情報を持っている」と発言して為替介入の合理性を強調。G20財務相・中央銀行総裁会議にあわせて30日に日銀の植田和男総裁と行った会談については、日本の金融政策正常化、そしてインフレ期待を安定させ、過度な為替変動を避けるための健全な政策策定とコミュニケーションの重要性について議論したと表明。31日にも、日本政府と日銀は円高につながる措置を取るとの確信を示してみせた。9月1日の会見では「アベノミクスの成功を享受し、リフレをやめるべきだ」と政策ミックスの転換を迫った。なお、G20では片山氏とも会談したが、これについてベッセント氏は特に発言していない。
【ベッセント氏、植田氏との会談についてX投稿】
日本に政策転換を迫る理由
その前後で日本側も動いた。日銀の氷見野良三副総裁は8月27日に「毎回の会合でしっかり議論する」と言及。植田総裁も9月1日、同様の表現で物価上振れリスクへの警戒を強めた。9月2日には高田創審議委員が、半年に1回、0.25%ずつといった固定的なペースに縛られず、機動的に利上げする必要性を強調。翌3日にはブルームバーグが、日銀は9月に0.25%引き上げ、その後のペースも柔軟化すると報じた。