ロボットの「ChatGPT」モーメントとは何か
ロボットが走り、殴り、跳ぶ。2026年の中国では、そんな動画が毎月のように流れてきた。4月のロボットマラソン、7月のロボット格闘リーグ、そして8月のロボット運動会と、ロボット関連の大型イベントが目白押しだったのだ。一昔前にはマンガの中の世界でしかありえなかった光景が次々と現実のものとなっている。
フィジカルAI(人工知能)、すなわちロボットなどを通じて物理世界に関与できるAIという分野でも中国が相当な技術を手にしていることは明らかだ。
だが、ロボットの時代を実現するためには、まだ越えなければならないハードルが多い。一番の問題とされているのはロボットの大脳に相当するAIの開発だ。この件について、中国では「ロボットのChatGPTモーメントがいつ到来するか?」という議論が交わされている。
ChatGPTが出現したのは2022年末だが、基礎技術の確立はもっと早い。LLM(大規模言語モデル)の研究史でよく参照されるアテンション論文は2014年に発表された。アテンションとは、文章の中でどの単語とどの単語が関係しているのかを、AIが重みづけして見る仕組みだ。
Googleの研究者らが発表したニューラルネットワークのアーキテクチャ(基本設計)「Transformer」は2017年に誕生している。さらに2020年には、モデルの規模、学習データ量、計算量を増やせば、性能がかなり予測可能な形で伸びるというスケーリング則が示された。こうした技術を使えばAIが会話らしきものをこなせることはわかっていたのだが、それが人々を驚かせ実際に役立つ技術と認識されるようになるまでには時間がかかった。
ロボットのChatGPTモーメントとは、すなわちいつ実用的になるか、あるいは実用的と認識されるかを意味している。
二人の王の温度差
中国A株市場で人型ロボット企業として初の上場を果たした宇樹科技(ユニツリー)の創業者、王興興(ワン・シンシン)は8月20日、北京で開催された2026年世界ロボット大会の壇上で、ロボットが見知らぬ環境で音声やテキスト指令だけで日常業務の8割をこなせるようになれば、ロボット産業は大きな転換を迎えると指摘した。
問題は能力獲得までのタイムスパンだ。「早ければ2〜3年、遅ければ5〜10年」、それが王興興の予測だった。
同日、人型ロボット企業ガルボット(北京銀河通用機器人)の共同創業者・王鶴(ワン・フー)は中国メディアのインタビューに、「あと2年、2028年にはChatGPTモーメントを迎える」と豪語した。
王鶴の定義するChatGPTモーメントとは、一般の人が誰でもできる作業を、ロボットが成功率70~80%で実行できること、そして簡単な追加学習によってロボットの作業の成功率を100%に引き上げられることだという。
二人の王の論争を、他のロボット企業経営者はどう見ているのか。中国紙『21世紀経済報道』によると、王興興の見立てに同意する声もあったが、業界内には彼の予測を保守的、あるいは悲観的と見る声もあるという。
明略科技(マイニングランプ)の呉明輝(ウー・ミンフイ)や奥比中光(オルベック)の黄源浩(ホワン・ユエンハオ)は「もう1〜2年でChatGPTモーメントに達する」と楽観論を展開した。星海図(ギャラクシアAI)の高継揚(ガオ・ジーヤン)は「ロボットの進化はまず工場や倉庫など、一般の目につかないところで静かに進展している」とし、「ChatGPTモーメント」というわかりやすい転換点はないとの見立てを示した。