カルチャー

ITから遠く離れた『指輪物語』が「ティール」「ヴァンス」「マスク」の“共通言語”となった世界観を探る

2026年10月10日


<span>ITから遠く離れた『指輪物語』が「ティール」「ヴァンス」「マスク」の“共通言語”となった世界観を探る</span>
Erman Gunes / shutterstock.com

「これこそが彼ら全員に共通する言語なんだ」──思想家カーティス・ヤーヴィンは、ピーター・ティール、J・D・ヴァンス、イーロン・マスクらが『指輪物語』に由来する固有名詞を共有していることを、そう評した。しかし、同じ“言語”を使うからといって、三者が同じようにその物語を読んでいるとは限らない。ライター・翻訳家の森瀬繚氏が考察する、テック右派による『指輪物語』受容の精神構造とは――。

カーティス・ヤーヴィンの「証言」

 今日、“テック右派”という括りの中で語られることの多いアメリカのIT起業家ないしは論客たちのうち、『指輪物語』への傾倒を表明している人々の中から、本稿では特にピーター・ティール、J・D・ヴァンス、イーロン・マスクの3人を取り上げたい。

 前編で名前を挙げたAnduril Industriesのパーマー・ラッキーもこれに加えるべきかもしれないが、筆者が確認できた限りにおいて、彼が『指輪物語』のファンであり、社名をそこから採ったこと、そして“アンドゥリル”というエルフ語由来の言葉の意味をしっかり理解しているという以上の情報は得られなかったため、今回は除外する。

 まず、テック右派の中でもトールキーン派とでも評するべき人脈の中心にいるのが、ピーター・ティールである。1967年生まれの、西ドイツ出身の起業家・投資家で、技術畑出身というわけではないが、インターネット・コンピュータ産業の将来性に着目して90年代にベンチャー・キャピタルを創設。Confinity(後のPayPal)、Facebook(後のMeta)などの名だたるIT企業の創業にかかわった後、2004年にPalantirを共同創業した。

 現職のアメリカ合衆国副大統領であるJ・D・ヴァンスは、このティールの弟子ともいうべき人物である。1984年にオハイオ州ミドルタウンに生まれ、衰退する“ラストベルト”地帯の貧困家庭で育った彼は、苦学してイェール・ロー・スクール(イェール大学の法科大学院)に進むが、在学中の2011年にティールの講演を聴いたことがひとつのきっかけとなって法律家の道からドロップアウト。ティールのMithril Capitalの役員を経て、彼の支援のもと2019年にNarya Capitalを起業した。2023年にオハイオ州選出の上院議員に就任、そのわずか2年後に副大統領にまで上り詰めることとなる。

 そして、言わずと知れたイーロン・マスク。1971年に南アフリカで生まれたこの人物は、幼少期から科学技術に傾倒してロケットやコンピュータに熱中し、1989年に母方のルーツであるカナダに渡ってクイーンズ大学に学んだ後、1991年にアメリカに移り住んだ。1999年に、オンライン金融会社X.comを共同創業。いったん経営者から降りたものの、翌年、Confinity社と合併するにあたりCEOに復帰。ティールとの縁はこの時に始まったようだ。

 ここに、興味深い証言がある。1973年生まれのソフトウェア技術者で、テック右派の中心的な思想家のひとりであるカーティス・ヤーヴィンは、2024年に出演したポッドキャスト番組において、ティールやヴァンスが社名を『指輪物語』から採っていることに触れた上で、

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