4.台湾へ武力侵攻はあるのか
はたしてアメリカは、同盟国や友好国を守るために強い意志を有しているのだろうか。アフガニスタンからの米軍撤退は必然的にそのようなアメリカの影響力の後退や、アメリカの同盟国への防衛コミットメントの信頼性の問題に連動することであろう。とりわけ重要なのが、アメリカの台湾防衛への関与の問題、さらにはその前提となる中国が台湾に武力侵攻する可能性についての問題である。
中華民国海軍第26代参謀総長を務めた李喜明と、アメリカのシンクタンク、「プロジェクト2049」アソシエイト・ディレクターのエリック・リーは、その共同執筆の論説において、台湾侵攻へ向けた中国のグレーゾーン戦略がすでに開始されていると警戒感をあらわにしている[Lee Hsi-min and Eric Lee, “The threat of China invading Taiwan is growing every day. What the U.S. can do to stop it(中国による台湾侵攻の脅威は日増しで増加している。侵攻阻止のためにアメリカが出来ることとは)”, NBC News, July 10, 2021]。中国人民解放軍の圧倒的な軍事力を背景とした武力による威嚇や、サイバー攻撃、さらには大量の「フェイクニュース」の拡散による影響力工作と、様々な手段を用いて台湾の国民の感情を操作しようとしている。この論考では、そのような中国のグレーゾーン戦略に警鐘を鳴らしている。
他方で中国の『環球時報』紙は、米台間の軍事協力が拡大していることが「一つの中国」原則を傷つけていると批判して、大陸はいつでも台湾に対して武力行使を行う準備ができていると威嚇している[美台必须准备好往前蹭时被当头棒喝 (米台はさらに踏み込んだ際には、反撃を受けることになる準備をするべきだ)」、『环球网』、2021年7月17日]。そして、これまで広く受け入れられてきた「一つの中国」原則をもしも、サラミをスライスするようにアメリカと台湾が無効化しようとするのであれば、中国による圧倒的な軍事による報復を覚悟せねばならないと説く。またこの論考では、台湾の軽率な行動に対して懲罰を行う必要が説かれている。そのような武力による威嚇こそが、台湾海峡をよりいっそう不安定化させているといえる。
それでは、実際に中国による台湾の武力統一の可能性はどの程度あるのだろうか。この問題をめぐり、現在アメリカ国内では活発な論争がなされている。その重要な契機となったのが、『フォーリン・アフェアーズ』誌にオリアナ・スカイラー・マストロが寄せた「台湾の誘惑」と題する論考である[Oriana Skylar Mastro, “The Taiwan Temptation: Why Beijing Might Resort to Force(台湾の誘惑: 北京が武力に訴える理由)”, Foreign Affairs, July/August, 2021]。そこでマストロは、中国政府が従来の平和的統一路線を修正して、軍事侵攻をする可能性が高まっていることに警鐘を鳴らす。同誌の最新号では、「危機の海峡? 台湾への中国の脅威について考える」と題して、何名かの中国専門家がこの問題について議論を加えている。たとえばクインシー研究所のレイチェル・エスプリン・オデルとMIT(マサチューセッツ工科大学)のエリック・ヘジンボサムは、そのような「侵攻パニック」がワシントンで広がっている現状を批判する[Rachel Esplin Odell and Eric Heginbotham; Bonny Lin and David Sacks; Kharis Templeman; Oriana Skylar Mastro, “Strait of Emergency?: Debating Beijing’s Threat to Taiwan(危機の海峡?台湾への中国の脅威について考える)”, Foreign Affairs, September/October 2021]。そして、今では従来の「一つの中国」政策や「戦略的曖昧性」が相対化されて侵蝕されるようになり、それにより台湾海峡が不安定化している現状を批判する。中国の台湾への武力侵攻のリスクは、「喫緊の問題ではなく、また彼女が示唆するよりも制御可能なもの」であるとマストロの主張を批判する。ほかにも、何人かの専門家が同様に、中国が台湾に軍事侵攻する可能性の低さに言及している。……