見えなかった全体像
昨年8月下旬、菅義偉総理(当時)はコロナ対応について「感染全体がどうなるか、いわば全体像をあらかじめ把握することが難しかった」と振り返った(「文藝春秋」2021年10月号)。新型コロナウイルス感染症が発症前や無症候でもステルスで感染拡大することに加え、度重なる感染の「波」や変異株、mRNAワクチンなど状況を一変させるゲームチェンジャーが出現したことは政府の危機対応を難しくした。
しかし根本的な問題は、情勢が刻一刻と変化し、いつ終わるとも知れないコロナ危機において、その全体像とともに「切れ目」のない対応策を総理大臣という国の最高指導者に向けて示す司令塔が政府に備わっていなかったことである。
岸田文雄総理は昨年9月の自民党総裁選への立候補にあたり健康危機管理庁(仮称)の創設を提唱していた。その輪郭が少しずつ明らかになってきた。
新型コロナウイルス感染症は日本でこれまで3万人以上の国民の命を奪ってきた。この国家的危機における最大の教訓は、パンデミックをはじめ健康危機に対峙するための戦略もオペレーションも、そしてそれを稼働させるガバナンスも、事前に十分な備えがなかったことである。平時モードから有事モードに切り替えようにも、その切り替えるべき有事の仕組みそのものが脆弱だった。……