日本は太平洋を背に、中国、北朝鮮、ロシアという3つの核保有国を前にし、民主主義国家と専制主義国家の対立の最前線に位置している。同時に、インド太平洋地域は世界の人口の半数とGDP(国内総生産)の約6割を擁し、世界経済の成長エンジンである。地政学的競争が激化するなか、日本はいかにして平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄など自らの国益を守っていくべきか。いわば、荒れ狂うインド太平洋の海で、日本はどう生き延びていくのか。2022年12月16日、岸田政権が閣議決定した安全保障3文書は、その荒れ狂うインド太平洋における航海の海図となるものである。
防衛力の統合から「総合的な国力」の統合へ
戦略に求められる要素とは、脅威を分析したうえで、守るべき国益を明確にし、目標(ends)を設定し、とるべき政策のアプローチを手段(means)と方法(ways)として示すことである。新しい国家安全保障戦略は、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」という国際情勢認識に基づき、「国家の対応を高次のレベルで統合させる戦略が必要」であるとの視点に立ち、旧戦略と比べ国益や安全保障上の目標をより明確にし、反撃能力の保有など新たなアプローチを示した。また目標達成のための手段として、外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力の5つを束ねた「総合的な国力」を活用すると明記した。さらに昭和51年(1976年)に防衛計画の大綱が策定されてから46年、政府は国家防衛戦略を初めて策定した。安全保障に関する国家戦略の体系化が進んだと言えよう。日本の安全保障政策にとって歴史的な転換点である。
2013年12月、第二次安倍政権は史上初の国家安保戦略を策定し、あわせて防衛計画の大綱(25大綱)を定めた。25大綱は陸・海・空の統合機動防衛力の構築を、さらに2018年の30大綱では宇宙・サイバー・電磁波といった新領域を含めた多次元統合防衛力を構築することとした。政府はこうして統合運用体制の整備を進めてきたが、はたして有事に、自衛隊を真に統合して運用できるのか、という懸念が提起されてきた。こうした中、2021年に発足した米バイデン政権は統合抑止(integrated deterrence)を提唱し、あらゆる領域、戦域、紛争の烈度において、米国の全ての国力に加え、同盟国や同志国とのネットワークもフルに動員して、中国をはじめとする脅威を抑止する、という方針を掲げた。自衛隊は統合運用の実効性を高めつつ、統合抑止を旗印に掲げる米軍とともに、日米共同運用のオペレーションを、より一層、進化させる必要がある。
そのため今回の国家防衛戦略は、常設の「統合司令部」創設を定めた。これまで有事となれば自衛隊はその都度、統合任務部隊を編成する必要があった。東日本大震災では東北方面総監を指揮官とする災統合任務部隊が編制された。今後は平素から統合司令部が一元的に部隊運用を行い、有事となれば統合司令部の長である統合司令官が部隊を指揮し、統幕長は防衛大臣や総理など政務の補佐に徹する、という体制が見込まれている。……