政治

モスク破壊の地に巨大ヒンドゥー寺院完成――インド総選挙「号砲」で後退する「政教分離」

2024年2月5日


<span>モスク破壊の地に巨大ヒンドゥー寺院完成――インド総選挙「号砲」で後退する「政教分離」</span>
式典の模様は国営テレビなどで中継され、翌日の一般公開では約30万人の参拝客が集まった[ラーマ寺院の落成式典に出席、神像に祈りを捧げるモディ首相=2024年1月22日、インド・ウッタルプラデシュ州アヨディヤ] 写真提供:インド報道情報局(PIB)

現与党BJPに扇動されたヒンドゥー教徒によるモスクの破壊が約30年前のイスラム教徒との大規模宗教間衝突につながったウッタルプラデシュ州アヨディヤに、このたび巨大なヒンドゥー寺院が完成した。4月からの総選挙を睨み、落成式にはモディ首相やヒンドゥー至上主義団体RSSの総裁など多数の有力者が参集したが、イスラム教徒からは警戒の声が上がっている。「ムガール帝国時代に多くのヒンドゥー寺院が破壊され、跡地にモスクが建設された」というのがヒンドゥー教徒側の主張であり、宗教施設をめぐる同様の対立はインド各地に残っている。

 1月22日、ヒンドゥー教の聖地とされるインド北部ウッタルプラデシュ州のアヨディヤで、人々の篤い信仰を集めるラーマ神をまつった巨大寺院が完成し、盛大な落成式が行われた。

 式典にはナレンドラ・モディ首相ら与党・インド人民党(BJP)幹部のほか、BJP最大の支持母体であるヒンドゥー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)のモハン・バグワット総裁をはじめ、クリケットの元スター選手で国民的英雄のサチン・テンドルカル、巨大財閥リライアンス・グループ総帥のムケシュ・アンバニ、人気のヨガ指導者バーバ・ラームデブ、ボリウッド映画スターのアミターブ・バッチャン、そして「ムトゥ 踊るマハラジャ」で知られる俳優ラジニカーントなど約7000人の著名人が招待された。

 寺院内部には高さ1.3メートルのラーマ神像が据えられ、スピーチしたモディ首相は「新時代の到来だ」と祝辞を送った。式典の模様は国営テレビなどでライブ中継され、翌23日の一般公開では約30万人の参拝客が長い列をつくった。

 ラーマ寺院の敷地面積は、庭や回廊なども合わせると約28.3万平方メートル(東京ドーム6個分)、総工費は2.17億ドル(約320億円)。現地のヒンドゥー教団体が管理しており、建設費の多くは寄付でまかなわれたと見られるが、BJPモディ政権の全面的バックアップがあったことは周知の事実だ。

長年争った聖地の帰属

 インドの人口の約8割を占めるヒンドゥー教徒にしてみればめでたい行事だったかもしれないが、この国家主導の寺院建設は様々な問題をはらんでいる。寺院の敷地には、もともと16世紀のムガール朝時代に建てられたモスク(イスラム礼拝所)があった。過激なヒンドゥー教徒らは「アヨディヤはラーマ神の生誕地。もともとモスクができる前にはヒンドゥー寺院があった」と主張し、長年イスラム教徒と帰属を争ってきた。

 1992年12月、BJPの政治家らに扇動された数千人の群衆がモスクを破壊するという事件が起きた。「聖地」の帰属を巡って複数の宗教が争うという構図は、死傷者の数などには開きがあるが、まさにエルサレムを巡るイスラエルとパレスチナの対立に似ている。モスク破壊事件をきっかけに全国でヒンドゥーとイスラムの宗教間対立が激化し、暴動によって約2000人の犠牲者が出た。犠牲者のほとんどはイスラム教徒だった。……

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