戦後80年、日本がなぜ「大東亜共栄圏」へと突き進んだのかという問題について、「外務省本丸説」とも呼ぶべき、新たな視点から論じた話題書『外務官僚たちの大東亜共栄圏』(熊本史雄著、新潮選書)が刊行された。中国政治外交史の第一人者で、東京大学教授の川島真さんが同書を読み解く。
***
外務省にとっての「失敗の本質」
本書は、「大東亜共栄圏」という対外膨張策が策定された原因を、軍部の膨張主義やアジア主義、あるいは対外強硬派のイデオロギーに求めず、外務省という官僚組織、それも小村寿太郎から幣原喜重郎、そして重光葵などに至る外務省の理知的なエリート官僚たちに求め、むしろ外交思想の集大成として準備されたのがその「大東亜共栄圏」であると主張するものである。すなわち、「〈国益〉を純粋に追求すると言う外務官僚たちの思想的営為の積み重ねが、皮肉にも戦争を引き起こす結果に至った」というのである。
広く知られる、戸部良一他『失敗の本質』(中公文庫、1991年)では、日本陸軍の「失敗の本質」を陸軍の組織論に求めている。著者は、陸軍についてのその議論を認めつつ、外務省にとっての「失敗の本質」は異なるのであり、その外務省の「失敗の本質」を問うにはその前提や背景、さらには基層をなす秩序観や世界観といった観念のレベルから問い直す必要性があると述べる。外務官僚たちは「自らの権益の内在的論理からのみ発想し、他国の視座への想像力を欠いたものになったために挫折していった」のだから、その内在的理解とは何かというのが本書の出発点である。……