<span>「日本は平時に最適化されすぎてしまった」防衛大臣・小泉進次郎を動かす「伝説の外交官」の警鐘</span>
議員会館で取材に応じた

「あんな外交官はこれから二度と出てこないのではないか」。そう評される男がいる。岡本行夫のことだ。外務省北米局で安全保障課長や北米第一課長など日米外交の要職を歴任したのちの91年、働き盛りの45歳で退官して岡本アソシエイツを設立。橋本龍太郎や小泉純一郎など時の首相の補佐官として日米関係の「正常化」に努めたが、2020年に新型コロナウイルスに感染し死去した。岡本が遺作となった著作『危機の外交 岡本行夫自伝』最終章の最後に記した問題提起は「超安全主義から決別できるのか」だった。親交の深かった小泉はそのメッセージをどのように受け止めているのか。インタビューの後編をお届けする。(敬称略)

報じられなかった献身

 小泉が言う。

「『超安全主義から決別できるのか』という岡本さんのことばを、私は別の言い方でよく口にします。それは『日本は平時に最適化されすぎてしまった』ということ。防衛大臣として日々、機微情報に触れると、世界の有事がとても身近に感じられます。これだけ世界がつながり合っている時代に、完全な平時でいられ続ける国などありえない。目に見える戦火でなくとも、サイバー戦争、世論を操作し国論を分断しようとする認知情報戦は日常的に行われています。人間の活動がAIや宇宙空間に拡張されたことで、私たちは有事と平時に片足ずつ突っ込んだ状態で毎日を生きているといっていい。そのような状況で日本と地域、世界の平和と安全をいかに確保するのか、ということです」

 じつは、『危機の外交 岡本行夫自伝』で「超安全主義から決別できるのか」と題された箇所は、問題意識の提示にとどまっている。執筆中の2020年、岡本がコロナウイルスに感染し急死したためだ。そのことを指摘すると、小泉は言った。

「岡本さんが公聴会に出られた時の発言をご存じですか」

 2015年7月13日に衆議院で行なわれた「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会公聴会」のことだ。当時の政権は第三次安倍内閣。国会では安全保障関連法案の審議や成立に向けた論戦が続いていた。国際社会の平和と安全のための自衛隊法などの一部改正案と、国際社会の平和のために共同で対処すべき事案について協力支援活動を行えるようにする法律案が内閣から提出され、岡本は公聴会の公述人のひとりとして招かれたのだった。

 意見を求められた岡本は、国際環境の変化に触れながら、集団的自衛権について意見を述べている。

〈世界が助け合っているときに、日本が我関せずという態度をとり続けることは、すなわち、日本人の命と財産を守るリスクと負担はほかの国に押しつけるということを意味します〉

〈1994年、イエメンの内戦で96人の日本人観光客が孤立したとき、救ってくれたのはドイツ、フランス、イタリアの軍隊でした。2000年からだけでも、総計238人の日本人が11カ国の軍用機や艦船などで救出されてきました。

 1985年3月、イラン・イラク戦争でイランの首都のテヘランが危機になり、日本人215人が孤立しましたが、日本の民間航空機は、危険だからとテヘランまで飛んでくれませんでした。それを救ってくれたのはトルコでした。トルコ政府は、テヘランに派遣した2機の救出機のうちの1機を日本人救出に当て、そのために乗れなくなってしまった何百人かのトルコ人は陸路で脱出させたのです。

 日本では報道されませんでしたが、2004年4月、日本の30万トンタンカーのTAKASUZUがイラクのバスラ港沖で原油を積んでいた際に、自爆テロボートに襲われました。そのときに身を挺して守ってくれたのは、アメリカの3名の海軍軍人と沿岸警備隊員でした。彼らは日本のタンカーを守って死に、本国には幼い子供たちを抱えた家族が残されました。

 みんながみんなを守り合っているのです〉

〈皆様の御判断は決定的に重要であります。我々は今、日本がこれまで各国の善意と犠牲の上に日本人の生命と財産を守ってもらい、それでよしとしてきたこの国のあり方を転換できるかどうかの歴史的な分岐点にいると思うからであります〉

 まさに「超安全主義からの決別」を求めた岡本は、さらに〈日本の周辺には軍事大国が3つある〉という議員の指摘を踏まえてこう言う。

〈御指摘のとおり、この地域には世界じゅうの大きな兵力を有する国家が集まっております。世界トップファイブの兵力国のうち、三つまでがこの地域におります。そして、日本は、その中で、防衛費をGDPの対比でいえば世界で百番目以下という非常に低い負担で、しかも、どこの国からも侵略されるおそれをなしにこれまでやってきているわけであります。

 これは、私は、先ほどの山口(編集部註・山口二郎法政大学教授)公述人の意見とは異なります。日本が集団的自衛権を放棄したからではなくて、アメリカとの日米安保条約によって、米軍が、仮にも日本に侵略の動きを見せる国があれば、それに対してみずからの報復意思というものを示すということで保たれてきている平和でございます〉 

〈この法案というのは、日本がみんなでみんなを守り合うという今の国際的なコミュニティーに参加できるかどうかという、その点が一番重要なわけでございます。

 したがいまして、成立しなければ、日本はそのコミュニティーには入らない。そして、各国が、日本がその法律を通さないのなら、もう日本人を救出する、守ってやるということはやめるというようなことはしないでしょうから、まあ守り続けてくれるでしょう。しかし、我々にとっての大きな安心感というのは得られないし、まさに憲法が想定しているような、それが日本の国際社会での名誉ある地位かということだと思います。有形無形の形で我々は国際的なリスクをしょわなければいけないと思います。

 それから、一言だけ申し上げれば、例えば湾岸戦争のときには、危険なことは一切やらないということで、結局、日本は130億ドルという巨費を出していわば勘弁してもらった。インド洋で海上自衛隊の補給艦が活動を行っていた、これも、政権がかわって、撤収いたしました。そのかわりに、日本は5000億円のお金を今度はアフガニスタン政府に出さなければいけなかった。あの給油活動自体は100億円以下で済んでいたわけでございますね〉

 小泉は言った。

「公聴会の記録はインターネットで読むことができます。あのとき提起された論点は、10年以上たった今も日本人の前に置かれたままだと思います」

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