トランプ政権下で、従来のリベラル・デモクラシーの常識をひっくり返すような出来事が次々と起きている。その思想的背景を丁寧に解説した話題書『アメリカの新右翼:トランプを生み出した思想家たち』(井上弘貴著、新潮選書)が刊行された。はたして新右翼(ニューライト)たちはアメリカをどのように改造しようとしているのか。私たち日本人はそこから何を学ぶべきなのか。新進気鋭の政治思想史家、上村剛・関西学院大学准教授が同書を読み解く。
***
先日、『敵』という映画をみた。筒井康隆の原作(新潮文庫、2000年)であり、退職したフランス演劇史の元大学教授が、ある日「敵がやって来る」というメールを受け取り、そこから敵の襲来という妄想に取りつかれていく、という物語だ。老いと死の恐怖がまざり、どこからが現実でどこからが妄想なのか、徐々にわからなくなる。同時代のさまざまな不安意識を見事に映像化した本作は、東京国際映画祭の最高賞を受賞した。
アメリカの現代思想を真剣に受け止める
井上弘貴『アメリカの新右翼』を読み終えたとき、ふと思い出したのが、この映画のことだった。『敵』同様に、現代のアメリカ思想も混沌としている。覇権国家の「老い」という不安もあり、なお強迫的に希望を求めるという、人間に共通の情念もわかる。しかし、陰謀論と妄想に駆られていくさまをどう受け止めればいいのか、正直わからない。戸惑いも生じる。考えるのが面倒になり、頭を使って真剣に考えるべきことがらなのか自体、判断がつかなくなる。……