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後編

アダム・スミス『道徳感情論』で読み解く「一流」のエッセンス

2026年5月21日


<span>アダム・スミス『道徳感情論』で読み解く「一流」のエッセンス</span>
SNSでの称賛や他人の評価に振り回されず、「中立な観察者」の声に耳を傾けよ(Rawpixel.com/Shutterstock.com)

 1776年に発表された『国富論』が代表作として語られがちだが、その20年近く前に著された彼の処女作こそ、アダム・スミスの哲学が最大限に反映された大著といえよう。氏が36歳にして書き上げた『道徳感情論』は、260年経った現代でもなお世界中で読み継がれている。ネットやSNSで社会が混沌化する中、今こそ同著から学ぶべきことがあるはずだ。 『国富論』を読み解いた前編に続く後編では、『道徳感情論』のエッセンス、およびそのビジネスや私生活への活かし方について、経済アナリストの森永康平氏にきいた。ビジネスパーソンの一人でもあり、かつ経済の専門家でもある森永氏の読み解きは、現代を生きる人々にとって大きなヒントになるはずだ。

「他人から否定されないための努力」

 アダム・スミスの代表作として『国富論』をイメージされる方が多いかもしれませんが、実はそれは彼の初の著作『道徳感情論』の構想の一部を詳しく述べたものです。アダム・スミスの思想の全体観を知るためには、『国富論』よりむしろ『道徳感情論』を読むべきだといえるでしょう。産業革命真っ只中の時代、経済発展により恩恵を得たのは一部の層だけで、多くの労働者が貧困にあえぐなか、「人間が心豊かに生きていくにはどうすればよいか」をテーマに書かれたのが、この『道徳感情論』です。以下、そのエッセンスを述べていきましょう。

 まず、アダム・スミスは『道徳感情論』の中で、人間は利己的であると同時に他人の喜びや悲しみに寄り添う「共感力」を備えた存在だ、と述べています。自分の利益を追求しながらも他人に共感し、でもやはり完全には他人の気持ちを理解できないし寄り添いきれない、そんなジレンマを抱えながら常に「他人から賞賛をされるための努力」と「他人から否定されないための努力」をし続ける。それが人間である、と。

 ここで特に注目しておきたいのが後者の「他人から否定されないための努力」です。SNS全盛の今、私のように世に顔と名前を出して発信している職業の人はもちろん、そうでない一般の人も下手なことをしたり言ったりすると他人からすぐに叩かれる世の中となっているからです。

 他人から批判されたり、否定されたりするのを避けるために人はどうするかと言えば、自分の中に何かしらの基準を設け、それを常に守って行動します。例えば、私はテレビやラジオに出演する際、後で発言を検証されても困らないように「データに基づいた発言をする」ことを自分のルールとして定めています。あるいは、急いでビルの最上階まで行かねばならないのに、1階のエレベーターの前に長い行列ができていたとしましょう。行列を無視して横入りしたら早く上階に行けるわけですが、多くの人はそんなことはしません。なぜかといえば、横入りした時に周りから非難の目を向けられたくない、怒られたくない、批判されたくないという気持ちがあるからです。自分の中にあるこうした基準や気持ち、これこそアダム・スミスの言う「道徳感情」です。……

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