北朝鮮の非核化は可能なのか——。古くて、新しいとも言える疑問が、米国と韓国で改めて議論されている。目に付くのは、ありのままの現実を認める「率直さ」を強調する姿勢だ。ブッシュ(子)政権で米国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャは「非核化政策」の行き詰まりを認め、北朝鮮との軍備管理交渉に入るべきだと提唱した。韓国でも、李在明(イ・ジェミョン)政権与党を支える進歩派を中心に似たような主張が多くなっている。
米国とイスラエルによるイラン攻撃によって北朝鮮の抱く核保有への確信が高まったとみられる中、脅威への現実的な対応策は何か。改めて考えるべき時期なのかもしれない。
公に語る者はいない最善の戦略
話題を呼んだのは、米「フォーリン・アフェアーズ」誌(オンライン版)で今年4月に公開された「あるがままの北朝鮮(North Korea as It Is)」と題した論稿だ1。チャはここで、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を追求してきた従来の政策は現実味を失っているとし、制裁に頼るアプローチの継続は失敗をさらに深刻化させるだけだと結論づけた。
北朝鮮は既に40~50発程度の核兵器を保有し、さらに数十発分のプルトニウムと高濃縮ウランを保有しているとみられている。日本と韓国を射程に入れる中短距離ミサイルは数百発を実戦配備し、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)も開発した。チャは、こうした状況が「これまでのアプローチが失敗に終わったことを示している」と述べる。
そして「最善の戦略は、冷たい平和を維持することだ」と繰り返し主張する。それは「(米国と北朝鮮の)国交正常化には至らないものの、誤算や事態の悪化を避けるために率直な対話を優先する関係」だという。ブッシュ政権で6カ国協議の次席代表を務めたチャは、多くの政策当局者によって暗黙裏に共有されている考えだと記す。ただ、それは「降伏するようなものだとみなされているため、公に語る者はいない」だけだという。
かつてCVIDを強く主張してきた人物であり、米国における代表的な朝鮮半島専門家であるチャの提言として注目された。ただ、内容としては目新しいとも言えない。米国では他の専門家からも同様の提言が出されているからだ。
米国のカーネギー国際平和財団の安全保障専門家アンキット・パンダと元国防総省当局者のフランク・オムは昨年5月、北朝鮮の核保有を短期的に容認し、ドナルド・トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の関係構築を通じて核リスクを軽減すべきだとする米政府への提言書を公表した。非核化は「長期的で願望的な目標」として扱うべきだとしている2。米紙「ワシントンポスト」も今年1月、北朝鮮の核保有を認めるという「痛みを伴う政策の大転換」に言及しつつ「最善の道は率直さだ」と結論付ける社説を掲載した3。
さらに言えば、こうした見方は米国内でずっとくすぶり続けてきたものだ。ブッシュ政権で6カ国協議首席代表だったクリストファー・ヒル国務次官補の下で補佐官を務めたバルビナ・ホァンは2009年に訪日した際、日本の記者たちを前に私見と断りつつ「北朝鮮の完全な非核化ができるという考えには懐疑的だ」と述べていた。米国の政策として「北朝鮮が事実上の核保有国になったとしても、正当な保有国とは絶対に認めない」と語った4。核拡散防止条約(NPT)上の「核兵器国(Nuclear-Weapon States)」と認めることはないという、17年前に語られた言葉は現在に通じるものと言える。
実用外交路線の「利益」とも一致
さてチャの寄稿に対して、韓国ではどのような反応が出ただろうか。韓国の鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一相は「(これまでの)政策を失敗だったと規定したのが非常に印象的だった。強硬保守派の研究者が北朝鮮を敵のリストから外そうと話したことは極めて注目すべき見方だ」と評価したという5。