黒豆の味は守り、経営は時代に合わせる
名古屋の中心、伏見にある劇場が歌舞伎興行などで知られる御園座だ。そして御園座の裏手にあるのが「御園丸正」。鮮魚、刺身、惣菜、弁当を売っている。
同店が創業したのは昭和元年。百年続く鮮魚店である。だからといって古い木造家屋ではない。店は近代的ビルの一階にあるから、外観だけを見ると老舗の風格は感じられない。ただひとつだけ入口にかかっている魚の意匠が入った紺色ののれんが老舗らしさを感じさせる。なんといっても鮮魚店で百年というのは大したものだ。モノづくりの会社が多い愛知県だが、世界のトヨタでさえ創業から90年だ。御園丸正の方が長いのである。
店内に入ると、刺身、鮮魚、惣菜、弁当がずらっと並んでいる。刺身は天然のタイ、甘エビ、イカ、蒸しダコ……。惣菜はイワシの炊いたもの、金目鯛やマコガレイの煮付け、焼き魚、エビフライ、ニシンのフライ、黒豆、梅干し、らっきょう、釜揚げシラス、出し巻き玉子……。
スーパーの惣菜売り場よりも種類は豊富で質もいい。定番だけでなく、創作おかずも並んでいる。イワシの山芋明太チーズロールフライ、炙り明太ポテトサラダといったものだ。さらに食欲をそそるのが弁当だ。のり弁当には焼き魚が2種類入り、ちくわの天ぷら、玉子焼き、きんぴらごぼうという充実このうえない中身となっている。ご飯類もある。サーモンとしめじの炊き込みご飯、季節の炊き込みご飯といったものだ。ご飯とおかずを買って、自分なりのセット弁当にすることもできる。おかずだけを買って自宅でご飯を炊いてもいい。何よりいいのは値段がリーズナブルなことだ。物価が上がっている現在でも刺身は350円、400円といったところで、いちばん高い弁当でも1200 円程度である。御園丸正は庶民のための魚屋兼弁当店だ。
店を守るのは3人の女性。樋口嘉好子、夕里子、美登里である。それぞれおばあちゃん、おかあさん、お嫁さんである。
嘉好子さんは 88歳だ。しかし、背筋が伸びていて、颯爽としている。髪の毛のセットもパーフェクトである。そして、彼女は代表取締役だ。
彼女は言った。