人民元「対ドル相場上昇」のトリック
日米協調の円買い介入についてスコット・ベッセント財務長官が語った8月4日のCNBCインタビューで、人民元という言葉が飛び出した。円が弱含めば他の通貨も追随しかねないとして、韓国ウォンの変動とともに、中国人民元は割安だとみられていると言及。円防衛の文脈で、あえて人民元を持ち出したのはなぜか。
まず、人民元の実際の動きを確認してみよう。米財務省の7月の為替報告書によれば、人民元は2025年4月の1ドル=7.34元を底に反発し、2026年7月末には6.75元前後まで値を戻した。名目の対ドル相場だけを見れば、上昇基調にある。ところが、国際通貨基金(IMF)が算出する人民元の実質実効レートでの過小評価幅は、1月の報告書で示された2024年通年で8.5%から、2025年通年では中心値16.4%(レンジ12.1〜20.7%)へとむしろ拡大していた。
外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー氏は2026年1月、中国当局が名目相場の上昇ペースを米中金利差に見合う程度に抑えれば、中国の低インフレもあって実質実効レートはほとんど上昇せず、人民元の割安は是正されないと指摘。名目では反発しているのに、貿易相手国全体との物価格差まで考慮すれば実質的な割安感はむしろ深まっている――というのが実態だ。
この実態を踏まえたうえで、為替報告書の文言の変化を見ると、疑問が浮かぶ。1月の報告書は、当局に人民元を秩序ある形で上昇させるよう求める文言("allow the RMB exchange rate to strengthen in a timely and orderly manner in line with market pressure and macroeconomic fundamentals")を明記していた。
ところが、7月の報告書ではこの一文が消えた。人民元の名目相場が対ドルで上昇した【チャート1】からだと言うこともできそうだが、この一文が本来求めていたのは名目の上昇ではなく、「市場圧力とファンダメンタルズに沿った」上昇だったはず。つまり、セッツァー氏が問題視したような「実質面での是正が進んでいない」状態が解消されない限り、米国の要求が満たされたとは言い難い。結局、文言が消えた理由は、報告書の記述からは明らかにならない。
【チャート1:2024年以降の人民元相場の推移】
ただ、ベッセント氏の脳裏に、この人民元の「実質面での是正」が強く根を張り続けているのは確かなように思える。同氏が円安を語るインタビューの中であえて人民元を持ち出した背景としては、少なくとも2つの可能性が考えられる。