3.アメリカと同盟国との責任分担
バイデン政権に権威主義体制との体制間競争で勝利するための十分な財源が備わっていないとすれば、その論理的な帰結として、同盟国に対してよりいっそうの防衛努力と責任分担を求めることが想定される。はたして同盟国にその覚悟があるのだろうか。ブルッキングス研究所のトマス・ライトは、体制間競争に勝利できるか否かは、アメリカの同盟国がどの程度共同歩調をとるか、そしてアメリカ国内でそのような外交路線がどの程度幅広い支持を獲得できるかにかかっていると論じる[Thomas Wright, “Joe Biden Worries That China Might Win(中国の勝利を恐れるジョー・バイデン)”, The Atlantic, June 9, 2021]。
インド太平洋におけるアメリカの最も重要な同盟国、日本はどうか。日本は、体制間競争において民主主義国家としての価値を擁護して、対中抑止力を構築する上で十分な貢献をすることができるだろうか。トランプ政権で国防副次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー、そしてダートマス大学准教授で日本外交が専門のジェニファー・リンドは、『NIKKEI Asia』において、「日本は平和主義を放棄して、集団防衛を擁護すべきだ」と主張する[Elbridge Colby, Jennifer Lind, “Japan must disavow pacifism and embrace collective defense (日本は平和主義を放棄し、集団防衛を擁護すべきだ)”, NIKKEI Asia, June 18, 2021]。日本が従来の平和主義の巣の中に引きこもり、中国に対抗するための抑止力構築とこれまで以上の防衛努力へと前進しないのであれば、アメリカ国内では「なぜ自分たちが日本人以上に気を配ってリスクを負わなければならないのか」と疑問を抱く人が増えるだろう。また同時に、中国はよりいっそう冒険主義的で、強硬な行動を選択することになり、地域における安定は崩壊するだろう。それは結局、日本の安全や利益を崩壊させることになるはずだ。
日本だけではない。ベルリンの壁崩壊とドイツ統一から30年ほどが経過して、中国やロシアのような権威主義体制が影響力を拡大する中で、ドイツはこれまでのようにアメリカに安全保障を担ってもらおうと甘え続けることはできない。自由民主主義が世界中に広がるという、ドイツの楽観的な見通しは修正されるべきだと、『フィナンシャル・タイムズ』紙のチーフ・ポリティカル・コメンテーターのフィリップ・スティーブンスは説いている[Philip Stephens, “After Merkel, Germany must admit the return of history(メルケル以後、ドイツは「歴史の終わり」がもはや通用しないということを認めなければならない)”, Financial Times, June 24, 2021]。はたして日本やドイツは、そのような危機意識をもってよりいっそう防衛費を増大させることができるだろうか。バイデン・ドクトリンに基づく民主主義体制と専制主義体制との体制間競争の行方は、それによって大きく左右されるであろう。
もちろん、アメリカの同盟国として日本やドイツのみが重要な役割を担うというわけではない。EUや、ASEAN(東南アジア諸国連合)、そしてインドもまた、今後より一層重要な役割を担っていくのであろう。インドとの関係強化に動いたEUは、さらにASEANとの関係も強化することを求めている。コロナ下でも活発な外交活動を行うEUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は、タイの『バンコク・ポスト』紙において、EUとASEANが「当然のパートナー」であるとして、よりいっそうの関係強化を提唱する記事を寄稿している[Josep Borrell, “EU, ASEAN are 'Natural Partners'(EU、ASEANは「当然のパートナー」)”, Bangkok Post , June 17, 2021]。……