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8. フロイド殺害映像の複数性
ジョージ・フロイド殺害の罪を問う元警察官デレク・ショーヴィンの裁判の流れをまとめ、解説する2021年6月25日のニューヨーク・タイムズの記事は、22年半の実刑判決を「画期的」と評価する。アメリカにおいて職務中の警官が殺人の罪で裁かれるのはそもそも稀有であり、とりわけ犠牲者が黒人である場合はきわめて稀有であったためである[1]。
ショーヴィンの実刑判決は、もちろん、フロイド殺害以後のBLM運動の急速な高まりや、BLM運動に批判的なトランプ政権から共感的なバイデン政権への移行など、さまざまな政治・社会情勢の変化が少なからず影響していると考えられる。つまり、ダーネラ・フレイジャーが撮影した動画をはじめとする視覚的証拠だけでショーヴィンの有罪が決定したとは言い切れないのだが、そうだとしてもフロイドの殺害をとらえた映像がこれまでの警官による黒人への暴行・殺害映像とは異なっていたのも事実である。
フレイジャーの撮影した動画に殺人を犯した警官の顔がはっきり写っているというエヴァ・デュヴァネイによる先述の指摘ももちろん重要なのだが、それ以上に重要なのは、フロイドの殺害を記録していた映像が複数存在していたという事実である。フレイジャー以外の現場に居合わせた市民のスマートフォンによって撮影された動画が他にも存在していた、ということを指摘したいのではない[2]。そうした動画はたしかに複数存在していたが、ここで注目したいのは、市民のスマートフォン以外の複数のカメラによって記録された映像の存在である。つまり、店舗が設置した防犯カメラに加え、警察の管理下にある街中に設置された監視カメラと警官が着用するボディカメラによって機械的に記録された映像の存在である[3]。いち早く拡散され「世界が見ていた」のはピューリッツァ賞の特別賞を受賞したフレイジャーの動画だったとしても、彼女の動画が街中の防犯・監視カメラおよび警官のボディカメラの映像によって補完されることで、フロイド殺害の全体像を視覚的に把握することが可能になったのである[4]。ここで言う「全体像」とは空間的かつ時間的に再構成され得るものである。……