3.ヨーロッパのインド太平洋関与
■「本当に中国に対抗するつもりなのか?」
アメリカやイギリス、さらにはオーストラリアがこのようにアングロサクソン諸国での結束を含めて、ミニラテラリズムによって限定的な少数国での連携を優先する背景には、ヨーロッパ大陸諸国の防衛能力に対するアメリカ側の失望が見られる。30カ国で構成されるNATO(北大西洋条約機構)においては、アメリカ一国で全体の7割の防衛費を占めており、アメリカの防衛負担が圧倒的となっている。近年では、NATO内で目標としている、欧州の加盟各国のGDP比での2%以上の防衛費支出についてその条件をクリアした国の数が11カ国まで増えており、アメリカ政府からの批判に応えるかたちで欧州諸国の防衛費支出が増大している。とはいえ、財政支出だけではなく技術革新の領域においても、アメリカと欧州大陸諸国との格差は開く一方であり、そのような現実が、オーストラリア政府が、フランスではなく、共同開発の相手国をアメリカやイギリスへと変更した背景であろう。
とりわけ、インド太平洋地域で軍事行動を活発化させ、軍事費を増大し続けて技術もアメリカに対抗できる水準に近づいてきた中国に対して、ヨーロッパ諸国がどのように対応するかが問われている。国際政治学者のスティーブン・ウォルトは、自らの「恐怖の均衡」理論に基づいて、地球の裏側の中国の軍事的脅威に対してヨーロッパ諸国は一定程度以上の関与はしないであろうし、そのような脅威を真剣に受け止めて対抗することもないだろうと想定する[Stephen M. Walt, “Will Europe Ever Really Confront China?(ヨーロッパははたして本当に中国に対抗するつもりなのか?)”, Foreign Policy, October 15, 2021]。あくまでもヨーロッパ諸国にとっては、ウクライナ東部へのロシア軍による軍事攻撃の可能性という実在的な脅威こそが優先事項であり、ポーランドやバルト3国のようなEU加盟国の安全確保が優先されるべきだと考えられている。人権問題や、公衆衛生問題、国際貿易、気候変動などの領域では米欧間の協力は可能だろうが、それ以上のことを欧州諸国に求めることは不適切であるとウォルトは論じる。それゆえ、この論考のタイトルは、「ヨーロッパははたして本当に中国に対抗するつもりなのか?」となっている。
他方で、アメリカで保守派を代表する外交評論家のウォルター・ラッセル・ミードも、インド太平洋地域における米軍の関与について、欧州諸国では適切に理解されていないことを批判している[Walter Russell Mead, “In Europe, Confusion Reigns About the U.S.(欧州では、米国についての混乱が続いている)”, The Wall Street Journal, October 25, 2021]。たしかに、イギリスやオランダ、ドイツはこの夏から秋にかけて、海軍の艦船をインド太平洋地域に派遣した。ただしそれは名ばかりのものであって、実際にこの地域で有事が発生した際に実質的な軍事的貢献ができるかどうかは不明である。むしろ欧州諸国はそれ以外の方法で、中国が国際的なルールを守るように説得するなど、重要な役割を有している。ウォルトとミードは、いずれも、アメリカのインド太平洋での責任や軍事的関与についての欧州諸国における理解の不足から、米欧間の摩擦や、インド太平洋政策の軋轢が生じていることを指摘する。……