俗説ではあるが、スタートアップ企業への投資は「千三つ(せんみつ)」の世界と言われる。1000件の起業や投資案件があったとして、IPO(新規株式公開)にいたるなどして成功を収めるのはそのうち3件程度に過ぎないという意味だ。
現在はハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、MITスローン経営大学院やロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでの教職も歴任してきたトム・ニコラスによる『VC: An American History』は、アメリカにおけるベンチャーキャピタルの歴史を詳述する。
捕鯨航海に見るベンチャーキャピタルの起源
ベンチャーキャピタルのビジネスモデルの本質とは、利益配分の極端な歪みである。多数のスタートアップ企業で構成される企業群(投資先の「ポートフォリオ」と呼ばれる)に出資し、ほんの一握りの投資先のパフォーマンスから莫大な利益を獲得することを目指す。一方で、他の大多数の企業が低リターンに甘んじたり失敗したりするのはやむを得ないと考える。投資先企業からのリターンは、株式市場のように標準的な「釣り鐘型」(正規分布のような形状)ではなく、「ロングテール型」に分布する。縦軸に近いところ、つまり全く利益が出ないところに大きな山ができ、右側(リターンがプラスの方向)に長い裾野が形成される。プラス方面に突出して伸びた投資案件が、全体のリターンの大半を生み出す。本書冒頭でニコラス教授はそう語るが、それこそが「千三つ」たるゆえんだ。
今日存在しているベンチャーキャピタル企業の元祖は、1946年に設立されたARD(アメリカン・リサーチ&デベロップメント社)であるというのが一般的な理解だ。しかし、ロングテール型のリターンモデル――別の言い方をすれば、アメリカにおける起業家たちの冒険心と抑えられない貪欲さ、金銭的利益の飽くなき追求の起源は、それよりもはるか昔、19世紀の捕鯨航海に原型を見て取れると語るところに、本書のユニークさがある。……