かつて作曲家が憧れの対象であり、リーダーだった時代があった。
大昔の話ではない。アメリカの作曲家、指揮者、ピアニストのレナード・バーンスタインが1958年から72年まで企画と司会をつとめたテレビシリーズ「ヤング・ピープルズ・コンサート」が大人気を博すと、海を越えたわが国でも黛敏郎、芥川也寸志らを案内役とする音楽番組が生まれる。いずれも音楽をある種、現代人が身につけるべき知的教養ととらえ、その代表者たる作曲家という立場から解説するものだった。彼らは音楽にとどまらぬ幅広い知見を披瀝し、洗練されたルックスもあいまってお茶の間の人気者となり、加えて自らの政治的立場を積極的に表明することで、時代のオピニオンリーダーとして大きな存在感を示した。
はて、なぜそれほど作曲家は偉かったのか。『ごまかさないクラシック音楽』の著者、岡田暁生と片山杜秀はこう語る。
岡田 実は一九世紀のクラシック音楽は、自由とか進歩とか、そういった市民社会のイデオロギーと結びついていた。「これが分かる教養人が文明人であり市民である」みたいなイデオロギーです。……