1945年8月、朝鮮半島。
日本が無条件降伏した10日後には38度線が封鎖され、北側に取り残された邦人たちは難民と化した。国家から見放され、飢餓や伝染病で斃れゆく老若男女の前に忽然と姿を現した男。死をも覚悟した同胞たちを祖国へ導いたことで、かれは“引き揚げの神様”とまで呼ばれるようになる。
『奪還 日本人難民6万人を救った男』(城内康伸・著/新潮社)は、名もなき英雄「松村義士男」による集団脱出工作に光をあてた発掘実話だ。
「戦後80年近くなると、新しい話を探し出すこと自体が難しい」と語るのは、ジャーナリストの森健さんだ。だからこそ、取材者は腕と見識を試される。その点、本書は丁寧な調査や取材を感じさせる新事実に満ちたノンフィクション作品であると同時に、これまで歴史に埋もれていた松村の「並外れた功績」にふれた著者による「静かな興奮も漏れるように伝わってくる」1冊だという――。……