1998年、当時のアメリカを代表する哲学者リチャード・ローティは次のような〈予言〉をした。労働組合や賃金・雇用などについて真面目に考えようとしない文化左翼たちは、労働者たちからの手痛い反撃を受けることになるだろうと。彼らは狡猾な弁護士や高給取りの債権セールスマン、そしてポストモダニズムを信奉する大学教授たちの支配を終わらせてくれるStrongmanに投票したいと思うようになるだろう。そのような人物が大統領になった暁には、彼はただちに国際的な超大富豪(⁉)と手を結び、有色人種や同性愛者たちが得た利益は帳消しになるだろうとも。その時、エラそうに指図してきた大卒者たちに対する低学歴者たちからの怒りが、あらゆる形で噴出することになるのだ[*1]。
それから19年後、ドナルド・トランプが第45代合衆国大統領に就任した。トランプ就任直後には左派からも深刻な反省が現れ、著名な思想家マーク・リラなどは先述のローティと同様、個人や集団の「差異」ばかりを強調する文化左派的な「アイデンティティの政治」を脱し、我ら「市民」としての国民共通の基盤を探ることを説いたりもしたのだった[*2]。
しかし、バイデン政権の時代を経て「反省」は忘却された結果、カマラ・ハリスが担ぎ出されるに至り、今年、再びトランプが第47代大統領として帰ってくることが決定したのだった。そんな歳の暮れから新年にかけて読むのをお薦めしたい本を紹介しておこう。
以上のような近年におけるアメリカの状況を歴史的に理解するために是非とも読んでおくべき一冊として、トランプ大統領出現以前に書かれた森本あんりの『反知性主義』を改めて挙げておきたい。この本は建国以来、定期的にアメリカに発生する信仰回復=リバイバル運動の姿を豊かな筆致で描き出したものである。リバイバルを駆動する「反知性主義」は、大学などの本来あるべき埒を越えたところで政治的な力を振るおうとする知性(知識人)に対する強烈な反発として、米国史において幾度となく噴き出してきた。今般のトランプ当選もまた、その定期的な噴出サイクルの一環として理解出来るだろう。また他方で、本書の中で描き出される宗教的覚醒(Awakening)にまつわる狂騒は、文化左派的な社会的正義戦士(Social Justice Warrior)――別名、「目覚めた者(Woke)」たちが、ポリコレやキャンセルカルチャーの実践を通じて執拗に道徳的な理非曲直を求める姿を彷彿とさせるものとして読むことも可能かもしれない。……