経済・ビジネス

米航空産業編[中]:関税合意で日本も100機購入「ボーイング」の製造現場で圧殺された「内部告発」

2025年7月25日

アメリカとの関税交渉の結果、日本はボーイング社の航空機100機を購入するという。「国益」をかけた政治決定の産物とはいえ、安全性問題が蔑ろにされてはならないだろう。「787」の製造工程の不備を指摘する内部告発について米FAA(連邦航空局)は昨年12月に調査を完了したが、その報告書は半年以上が経過した現在でもまだ発表されていない。

 2018〜19年の「737MAX」連続事故から債務超過転落、2人の最高経営責任者(CEO)の解任、さらに7週間にわたる長期ストライキへと続いた米ボーイングの危機。その後遺症からようやく立ち直りかけた同社にまた衝撃が走った。2025年6月12日、インド西部アーメダバードで乗客・乗員242人を乗せた「ボーイング787」型機(エア・インディア171便)が墜落。1人の生存者を除く乗客・乗員241人と墜落地周辺にあった医科大学や市民病院の関係者ら19人が犠牲になった。

「787」は愛称“ドリームライナー”。2011年に初号機が就航し、今年5月末現在納入機数は1189機に達し、948機の受注残を抱える。初号機就航から14年間で初の墜落・死亡事故だが、「787」は開発段階から当時の経営陣によって大幅なコストダウンを強いられ、そのために大掛かりな生産ラインのアウトソーシング(外部委託)を導入したことでトラブルが続出したことは本特集前回〈米航空産業編[上]――ボーイングに滴り落ちなかった新自由主義の蜜〉で触れた。

  • 米航空産業編[上]――ボーイングに滴り落ちなかった新自由主義の蜜

 

シックスシグマの“抜け穴”に品質問題

「787」の開発計画が始まった当初、2人のボーイングCEOフィリップ・コンディット(83)【在任期間1996〜2003年】とハリー・ストーンサイファー(89)【同2003〜05年】は、開発費や生産コストを「777」(1995年初号機就航)に比べ40〜60%以下に引き下げるよう製造部門に圧力をかけた。その「緊縮路線」を引き継いだ後任のジェームズ・マックナーニ(75)【同2005〜15年】は、コスト削減の切り札として大胆なアウトソーシング(外部委託)に踏み切った。

 例えば、主翼は三菱重工業、前部胴体は川崎重工業、電源システムは仏タレスといった具合に海外の部品供給メーカー(いわゆる“下請け”)を巻き込んだ国際分業体制を構築し、マックナーニはこれら下請けメーカーが作ったパーツを組み立てる作業に専念することでボーイング本体の組み立て作業比率を全体の35%に抑える方針を打ち出した。

 精密・精巧を必須とする航空機部品・部材の外注は品質面でリスクを伴うが、かつて米ゼネラル・エレクトリック(GE)航空機エンジン部門トップ(GEエアクラフト・エンジン社長兼CEO)だったマックナーニは、当時の上司であるGE会長兼CEOジャック・ウェルチ(1935〜2020年)が熱心に推奨したことで知られる「シックスシグマ(6σ)」〈詳細は本誌「『ウェルチの弟子たちの罪と罰』(4)『シックスシグマ』栄えて工場滅ぶ」参照〉による品質管理で不良品の発生比率を抑制できると豪語した。

 アウトソーシングをふんだんに取り入れた国際分業体制はグローバル時代に相応しいサプライチェーンとして、一時は「航空機製造の生産革命」などと持て囃されたが、実はマックナーニのシックスシグマには“抜け穴”があった。ボーイングの部品供給メーカーは製造業特有の重層構造になっている。前述した三菱重や川重、タレス、さらにジェットエンジンメーカーの英ロールス・ロイスといった部品・部材の「1次下請け」(呼称は「T(Tier)1」)に対し、ボーイングはドリル作業やボルトの締め方まで認証して管理するものの、「T2」以下の2次、3次下請けについては「1次下請け任せ」(業界関係者)だった。……

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