対照的なW杯のDAZNとWBCのNetflix
今回、DAZNが批判を集めたのは、割引額の「月額980円」を大きく打ち出して実は年間契約を結び、途中で通常料金に移行するというやり方でした。しかし、この手法は決して目新しいものではなく、むしろ古典的です。
「サブスク」という言葉が流行語大賞に名を連ねた2019年ごろ、健康食品を中心に「初回実質0円」などと割引を謳いながら、実態は高額な年間契約を結ばせるといったやり口が横行しました。国民生活センターへの相談が前年比2倍以上に急増し、国会もこの件を問題視した。2021年には最終画面で価格や契約期間の表示を義務付ける「改正特定商取引法」が成立しました。DAZNの件は、当時是正されたはずのことが今になってまた繰り返された、とみなすことができ、非常に嘆かわしく思っています。
これと対照的なのがNetflixです。今年3月に開催されたWBCではNetflixが放映権を独占し、「地上波で試合を視聴できない」と批判の声が上がりました。それにもかかわらず、Netflixは今でもポジティブな評判を維持し、大量の新規ユーザーを獲得し続けています。
NetflixがDAZNと違ったのは、会員が1ヶ月だけ契約してすぐやめることを良しとしていたことです。WBC期間中、Netflixは広告つきプランを半額で入会できるようにするなど、ハードルを徹底的に下げました。同時に、WBC終了の一ヶ月半後に流れるドラマ『地獄に堕ちるわよ』の番宣を、主演の戸田恵梨香さんを観客席に座らせて野球中継の隙間に差し込んだ。WBCで入ってきた新規ユーザーは、一度Netflixの世界に入り込んでしまうと、2ヶ月目へと進むわけです。仮に番宣の作品を見なくても、Netflixのなかには「粘着力」の強いコンテンツがたくさんある。それを目にしてもらう機会として、WBC期間中のNetflixの施策はとても良いキャンペーンだったと思います。
Netflixがこのように「入りやすく、出やすく、でも出たくなくなるコンテンツを用意する」発想だとすれば、DAZNは「とにかく囲い込んでしまう」発想に見えます。DAZNの野球チャンネル「DAZN BASEBALL」にしても年間プランだけの提供で、野球ファンにシーズンオフ期間も料金を払い続けさせるような設計になっています。
今回のDAZNの炎上の背景には構造的な問題もあるでしょう。スポーツの放映権料は世界的に高騰の一途をたどっており、スポーツ一点張りで事業を展開するDAZNにとっては、コストを回収するために会員数を増やし続けるしかない圧力が常にかかっている。スポーツ専門に絞り過ぎたがゆえにコアなファンしかつかず、マーケット規模的に放映権料の高騰に追いつかなくなっています。これもまた、Netflixが総合エンタメ化を進め、映画・ドラマのみならず、スポーツやコンサートの映像配信などをポートフォリオに加えているのと対照的です。
上手くいくサブスクの条件
サブスクリプションは根本的に会員制ビジネスです。つまり、会員が入ったあとからビジネスが始まる。ただモノを売っていた時代は契約した時点で売上が立つのでお客さんと手を取り続けなくても良かった。しかし、サブスクの月単価は大きくないため、会員になってすぐに退会されてしまうとビジネスとして成り立ちません。だからこそ会員になった後が重要で、「このサービスがあって自分の生活が良くなった」と顧客が継続的に実感できる場面を積み重ねること――「カスタマーサクセス」をサブスクは目指さなければならない。
それではどのようなサブスクが上手くいくのか、3つポイントがあると思います。
一つ目は「サービスの粘着性」です。ただ単に支払いを月ごとに分割しただけでは「売り切り」と何ら変わらず継続性はない。サブスクの要諦はユーザーを拘束しなくても続けてもらえるかどうかです。そのためには、自発的に「やめたくない」と思えるような粘着性のあるサービスが必須。紹介したNetflixの多角化戦略やWBCでのマーケティング戦略などがこの良い例です。
二つ目はユーザーに「優越感」を与えること。例えば、ラーメンを1カ月30杯食べ放題というサブスクがあったとしても、毎日は食べないからユーザーは都度購入でいいやと離れてしまう。ただ単に「利用するほどお得」だけでは足りないのです。そこで重要なのが「優越感」です。アイドルグループのファンクラブもある意味でサブスクですが、直接的なサービスが受けられるわけではない。それでも入会するファンがいるのはチケットの先行予約や会員限定イベントなどの特典があるためです。直接的にお金で買えない「優越感」をどのようにユーザーに提供できるか、これもまたサブスクビジネスで重要な点です。