在庫増の都心3区と注目の「新エリア」
ひと昔前まで“億ション”といえば、限られた超富裕層の世界に属していたはずである。ところが近年は、それが“平均”だというから途方に暮れてしまう。
不動産経済研究所の上席主任研究員である松田忠司氏が解説する。
「弊社の調査によれば、首都圏全体の新築マンションの平均価格は、2021年には6260万円でした。それが25年には9182万円、そして今年5月には1億660万円と、わずかの間に1・5倍以上の驚異的な上昇を見せています。東京23区に限れば、今年5月は1億6286万円と、過去2番目に高い平均価格でした」
一体なにが起こっているのか。
「ここ数年を振り返ると、22年から23年にかけての急激な円安の影響は極めて大きかった。円安が進むことで資材費が高騰し、マンションだけでなく戸建て住宅の価格にもダイレクトに跳ね返ってきました」(同)
ほかにも要因はある。
「この10年ほど、人件費も上がり続けています。特にRC(鉄筋コンクリート造)を手掛ける建設技能労働者の人件費上昇は激しく、その影響は徐々に蓄積されてきました」(同)
“不動産が高騰するのは外国人が買い漁っているからだ”という説を耳にする。これは事実なのだろうか。
「新築物件に関しては、外国人の影響は軽微でしょう。実態としては、まず日本人投資家などが新築物件を購入し、そこにプレミアム価格を上乗せして中古市場に売りに出す。その中古物件を外国人が買う、という流れが圧倒的に多い。中古の価格が上がれば、新築物件の値付けにも影響します。今は特に都心部の新築の供給が少なく、土地も買えない状況ですからね」(同)
住宅ジャーナリストの榊淳司氏があとを継ぐ。
「1億5000万円から2億円を超えるような物件は、新築・中古を問わず、なかなか買い手がつかなくなっています。マーケットはフリーズ状態です。山手線の内側や湾岸エリアのタワーマンションが買われているとすれば、それは投資や相続税対策ですね。地方の富裕な日本人や外国人に買われています」
都内でもブランド力を誇り“都心3区”と称される千代田区、中央区、港区では在庫が目立つ一方、新たに脚光を浴びているエリアもある。
「例えば、千葉県船橋市や幕張のタワーマンションが人気を博しています。同じく千葉県の流山市のマンションが20年前と比べて倍の価格になった、というケースもある。都内でいえば北区赤羽も注目されています。団地の建て替えや野村不動産のタワーマンションなど、新築の供給が相次いでいる。“始発駅”という利点がある足立区北綾瀬も、供給が増えています」(松田氏)
何度もシミュレーションした結果「50年ローン」を選択
こうした令和の“不動産バブル”時代に話題となっているのが、ずばり「50年住宅ローン」である。
「50年ローンのひとつ『フラット50』という商品自体は、かなり前から存在していました。しかし、ユーザーに認知されて利用者が急増したのはここ3、4年のことです。きっかけはコロナ禍。在宅時間が増え、よりよい住環境のニーズが高まりましたが、都心のマンションは1億円を超えている。そこで50年ローンを利用し、従来の35年ローンよりも返済期間を後ろ倒しにすることで、月々の支払い額を無理のないレベルに抑えるというわけです」(同)
住宅コンサルタントの寺岡孝氏によれば、
「50年ローンは、不動産価格が上がり過ぎた末の“救済措置”という側面が強い。最近では地方銀行やネット銀行が積極的に採用を始めています。メガバンクはいまのところ扱っていません。法人融資や35年ローンで十分に対応できると判断しているのでしょう。地銀などが50年ローンを扱うのは、地方の貸出先が減っており、マーケットを広げないと銀行を維持できないという切実な事情があると思います」
住宅金融支援機構の調査(26年1月)によると、35年以上の長期ローンを組んだ利用者は、全体の23・4%にのぼる。さらに、50年ローンのほかにも、新種のローンが誕生している。
「6月に大手ネット銀行が始めたのは“ハイブリッド型ローン”。これは毎月、元金の50%分に対する返済と利息を支払い、残りの元金の50%を35年後に一括で返済する、というものです」(経済部デスク)
おそろしいほど“未来志向”だが、金融機関は金融機関で、不動産バブルに対応しようと必死なのだろう。
では、利用者はどのような考えから50年ローンを組んだのか。実際に話を聞いてみよう。
メーカーに勤める小林さん(仮名)は、妻と子供二人の4人家族である。
「3年前、私は29歳で綾瀬エリアの5000万円の中古マンションを購入しました。築10年ほど、70平方メートルの2LDKです」(小林さん)
世帯年収は約1100万円。給料に加え、児童手当や自治体からの子育て支援があり、合わせて月63万円ほどの収入があるという。
「月々の返済額は約11万円で、収入のおよそ6分の1です。返済が家計の重荷になっている感覚はまったくありません」(同)
なぜ、50年ローンにしたのだろうか。
「幾通りものシミュレーションを行った結果、35年ではなく50年にして、浮いたお金を運用したほうが圧倒的におトクだと判断したからです。妻や親に50年ローンを組むと話したとき、“そんなに長く借りるのか”と最初は驚かれました。でも、シミュレーションの内容を説明したら納得してくれました」(同)
シミュレーション内容は以下の通り。
「借入額は約5000万円。50年ローンの場合、金利が35年ローンよりも0・15%ほどの上乗せになることを加味して、年利1・15%で計算します。まず、35年の場合は月々の返済額は約14万円になる。先ほども言ったように50年の場合は約11万円ですから、差額は3万円です」(同)