英国から中国へ返還されて20年あまりが過ぎた香港で、中国の強権的な支配によって自由な空間が細り続けている。香港国家安全維持法(国安法)の施行直後から、目の当たりにする民主派の大規模な逮捕は、「一国二制度」のもと50年にわたって約束されたはずの「高度な自治」がうち捨てられたことを示す。
闘うべきは「体制がもたらす矛盾」
阿古智子『香港 あなたはどこへ向かうのか』 出版舎ジグ/1600円
評者曰く、この本は筆者が「香港に入り、『五感』を揺さぶられながら歩いた魂の記録」だという
『香港 あなたはどこへ向かうのか』(出版舎ジグ)の著者である阿古智子氏は、1990年代後半から2001年までの5年間、香港で学んで教育学の博士号を取得し、研究者の道に進んだ。不安と同時に、植民地を脱することへの高揚とほのかな希望が寄せられていた時代である。
本書は、著者が20代後半を過ごした青春の地の変容に、「突き動かされるようにして」香港に入り、「五感」を揺さぶられながら歩いた魂の記録だ。「あなたはどこへ向かうのか」という問いかけは、香港で出会った人々に対するようでいて、自らへ発したものではないか。「わたしはどう向き合うのか」と。
聞くことに徹し、そこから対話を重ねる筆者の魂の彷徨に連れ添ううち、その問いを読者も共有することになる。そして、一党独裁の中国の台頭によって、戦後、育もうとしてきた価値観の揺らぎに波立つ東アジアにおいて、欠くべきではない視点に導かれるのだ。……