政治

地政学で捉える日韓「戦略目標」共有の難易度――尹錫悦政権の抑止戦略と朝鮮半島の戦略的安定性

2023年3月22日

東アジアの安全保障環境にとって最大のカギは日米韓の連携だ。しかし、尹錫悦政権の抑止戦略には、核能力保有志向や唐突にも見える台湾有事への言及など、直ちに理解することが難しい部分も少なくない。日韓の防衛における優先順位の食い違いを生む地政学的な要因から、その“わかりにくさ”にアプローチする。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、2022年12月末、韓国版のインド太平洋戦略を発表した。注目を集めたのは、同戦略において、「台湾海峡の平和と安定」が「朝鮮半島の平和と安定」や「インド太平洋の安定と繁栄」にとって重要だと言及したことである。尹大統領は就任以来、米国や日本との関係強化に努め、自らの防衛力強化も掲げてきたが、インド太平洋戦略においては自らを「グローバル中枢国家(Global Pivot State)」と位置付け、インド太平洋地域の発展に貢献する積極的・開放的な外交姿勢を打ち出している。台湾海峡への言及は、韓国の政治経済・軍事的な能力の高まりを背景として、朝鮮半島を超えて地域全体の安定に貢献するとの方針を示したように見える。

 一方、尹大統領は、北朝鮮によるこれまでに例のないペースでのミサイル発射や核開発の脅威を受け、韓国独自の核能力の保有検討や米国の戦術核配備を検討し得る旨発言している。これは政府の公式な方針となったわけではないものの、北朝鮮の脅威が自らや米国の抑止力に深刻な影を落としていることを浮き彫りにしたと言える。

 このような韓国政府の積極的・開放的な外交姿勢と、北朝鮮向け抑止力強化の求めという二つの際立った特徴は、どのように関連しているのか。本稿では、これら二つの尹政権の対外政策の特徴について、戦略的観点からその要因を分析したい。

「台湾海峡」言及の背景に何があるか

 韓国がインド太平洋戦略で台湾海峡に言及することの意味は、日本や日米の政府文書が台湾海峡に言及するのとはやや異なる。日本が「台湾を巡る情勢の安定は日本の安全保障にとって重要」(令和4年版防衛白書)と言うとき、それはまず、中国に対する懸念(戦略3文書で「最大の戦略的挑戦」と表現)に基づく表現であり、そして、日本と台湾との地政学的な近接性から、台湾有事への安全保障上の影響を日本が大いに受け得るとの認識を含意したものであろう。……

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