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科学がもたらす富とは「分かち合うことで無限にふくらむパン種」である

2026年5月18日

 インターネットは粒子物理学の研究所で生まれ、MRIは加速器実験の技術から生まれた。なぜ基礎科学への投資が巨大なリターンをもたらすのか? 一見すると縁遠いはずの科学と社会をつなぐ、思いがけない連鎖のメカニズムを、サイモン・シンやトマス・S・クーンなどの著書の翻訳を手掛けてきた青木薫が解き明かしていく。

 こんにちは、翻訳家の青木薫と申します。ポピュラーサイエンスを中心に、物理、数学、生物学、科学史、科学哲学の翻訳を手がけてきました。このたび、「イノベーションの生まれるところ」というタイトルで連載をさせていただくことになりました。社会的にインパクトの大きなアイディアが生まれる科学の現場について、できるだけさまざまな切り口で、ホットで、ディープで、ときにSFチックな話題を取り上げていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

科学への投資がいちばん大きなリターンを生み出す

 さて、連載のお話をいただいて真っ先に頭に浮かんだのは、ノーベル物理学賞受賞者の故レオン・レーダーマンが、生前、こう力説していたことです。「経済を成長させたいなら科学に投資しろ。基礎科学から応用まで、物理でも生物でも、とにかく幅広く、さまざまな科学分野に投資しろ。科学に投資するのが、いちばんリターンが大きいのだから。投資すればするほど、大きな見返りが得られるのだから!」

 これを読んで、「なんだ、科学者が科学に金をまわせって言ってるだけじゃないか」と思ったそこのあなた! 違います。全然違います。「研究したいから金よこせ」ではないし、お題目でも、きれいごとでもありません。レーダーマンの主張は、誰もが押さえておくべき、科学と経済のとても基本的な関係なのです。

 みなさん、1820年代の貧しくて汚いロンドンが、1880年代には世界に冠たるビクトリア朝の首都に変貌したのはなぜだと思います? あるいは、第2回ノーベル経済学賞(1970年)を受賞したポール・サミュエルソンは第二次世界大戦後にふたたび大恐慌が起こるだろうと予想したにもかかわらず、現実には、空前の成長と繁栄の時代が訪れ、それが20世紀の末まで続いたのはなぜだと思います?

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