インテルを皮切りに20社以上の株式を取得
1968年に公開されたスタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』で、人類は謎の石板モノリスとの接触をきっかけに、進化の跳躍を遂げた。AI(人工知能)も、労働市場や社会だけでなく、政治の世界に新たな領域を生み出しつつある。
6月12日に実施されたスペースXのナスダック上場(ティッカー:SPCX)は、調達額で史上最大規模の750億ドル(約12兆円)のところ、初値は150ドルとIPO価格の135ドルを上回った。一時は176.52ドルとIPO価格比で30.8%高を遂げ、19.2%高の160.95ドルで引けた。評価額は同日に2兆1000億ドルと、テスラやサウジアラムコ、ブロードコムを超えて世界で7位に躍り出た【チャート1】。
その1週間前の6月5日、ドナルド・トランプ大統領は、AI業界幹部と会合を開く方針を語った。「米国民は株式取得によってAI企業のパートナーになり、利益を得ることが可能になる」として、国民へ富を還元する示唆を与えた。
その意図を汲み取るには、2025年に遡る必要がある。トランプ政権は同年8月22日、バイデン政権下で成立したCHIPS法に基づく未払い補助金57億ドルとセキュア・エンクレーブ・プログラム(国防総省向けの機密半導体供給枠)の32億ドルを合わせた89億ドルをインテル株(1株20.47ドル、4億3330万株)に転換、同社株の9.9%を取得している。
この際、インテルは「米国を株主として迎えることを歓迎する」とプレスリリースを発表。その中でハワード・ラトニック商務長官は、政権がAI分野における米国の優位性強化と国家安全保障の確保に引き続きコミットするとコメントしている。ただし政府の持ち分はパッシブ・オーナーシップにとどまり、取締役会への参加や経営への関与はない。
トランプ政権はその後、レアアースや核エネルギー、半導体、量子コンピューティングなど20社以上の民間企業の株式を取得した。⽶国戦略国際問題研究所(CSIS)は、政権の手法を「補助金や融資という間接支援から株式という直接参加型」への産業政策の根本的な転換としたうえで、戦後の米国産業政策が維持してきた一線を越える決断と捉えている。
国家の安全保障と企業の資金調達、“持ちつ持たれつ”の巨大イベント
インテル案件で確立した「政府が民間企業の株主になる」という枠組みが、いまAI企業に応用されつつある。オープンAIのサム・アルトマンCEOは、2025年初頭から政府に同社株取得を提案してきた。交渉は1年以上続き、ここでは株式を「自発的に」政府へ提供する形が想定されている。オープンAIの評価額は8520億ドルとされ、1%でも85億ドルを超える計算となり、政府にとっては破格の「無償出資」となる。