ベートーヴェンの交響曲「運命」の冒頭、あのダダダダーンという有名なフレーズ。これをオーケストラが荘厳に演奏しても、テンポを極端に遅くしても、高速に弾いても、私たちはすぐに「あ、運命だ」と気付きます。音が鳴っている絶対的な長さが変わっても、音と音の間の比率、つまりリズムの構造が保たれていれば、「同じ曲」として認識できるのです。
このように、表面的な特徴に左右されず、リズムの全体像を捉える能力は「抽象的リズム知覚」と呼ばれます。テンポの違いに惑わされず、その奥にあるリズムを感じ取って同一のものとして認識する力は、音楽やダンスだけでなく、言葉を理解するうえでも重要な土台となっています。話す速さが変われば、空気の音振動の物理的特徴は大きく異なります。それにもかかわらず、私たちヒトが違和感なく会話を理解できるのは、このような抽象化の能力が働いているからだと考えられます。
ところが、中国・南方医科大学のソルヴィ博士らの最近の研究は、この能力がヒトに限らないことを示しています。4月の『サイエンス』誌に発表された論文です。この発見の主役は昆虫。可愛らしい姿で花から花へと飛び回るマルハナバチです。