謂れのない誹謗中傷が相次ぐ
このたびは、僕が主演を務めたドラマの撮影現場でのトラブルがこれほど大きな騒動となり、皆さまにご迷惑をかけてしまったことを誠に申し訳なく思っております。謂れのない誹謗中傷が相次いでいます。このままでは誰も幸せにならないとの思いから、あくまで僕自身の視点ではありますが、何が起きていたのかをご説明するためインタビューを受ける決心をした次第です。
〈フジテレビの連ドラ『夫婦別姓刑事』で佐藤と橋本の二人は、職場では息の合った刑事コンビ、家庭では夫婦という役を演じた。物語は、そんな二人による軽妙な掛け合いと事件解決ミステリーを織り交ぜたコメディー調の刑事ドラマだった。
6月23日に無事最終回を迎えたものの、7月1日配信の『週刊文春 電子版』(以下、文春)に“疑惑”の記事が掲載された。その内容は匿名のスタッフによる告発で、佐藤が撮影現場で橋本へのハラスメント行為に及んだというものだ。
記事を受け、7月3日には、佐藤がフジの別のドラマから降板したと報じられる。9月公開予定の映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』の関連ドラマへの出演が見合わせとなったのである。
一方の橋本についても「フジに過剰な被害を訴えたのではないか」との批判が広がった。ネットでは彼女の名誉を傷つける根拠なき書き込みが後を絶たず、騒動は双方に悪影響を及ぼしている。〉
一体、何があったのか。順を追ってご説明したいと思います。
クランクイン前、初共演となる橋本さんとポスター用の写真を撮影した際は互いの身の上話で盛り上がり、すぐに打ち解けられると思っていました。本編の収録に入った2月28日以降も収録は滞りなく進んでいた。ところが3週間あまりが過ぎた3月22日、予期せぬアクシデントが起きたのです。
初回放送用の警察車両内のシーンを撮影していた時のことでした。ハンドルを握り、運転する妻役の橋本さんが目を閉じて口だけを開け、夫役の僕が慌てふためくというコミカルなやり取りの場面です。僕が「口ではなく目を開けて!」と声を掛け、ドタバタするお芝居の流れの中で、自然に彼女の顎に片方の手の指が触れてしまいました。
『文春』の報道は、その後の事実関係について大きく歪められており、記事全体を通して、僕を貶めることが目的になっていると感じました。
〈『文春』の概要は以下の通り。橋本は10年ほど前に共演者からハラスメント被害を受けた時の心の傷が原因で、相手役との身体的な接触を伴う演技に慎重になっていた。橋本側はこうした事情を前もって制作サイドに伝えており、佐藤に知らせるかどうかの判断は、局に委ねるとした。これを受けて、番組のチーフプロデューサーと佐藤のマネージャーが話し合い、佐藤本人には知らせない方針となった。
何も知らない佐藤は、橋本との身体接触があった翌日の3月23日に突然、チーフプロデューサーから橋本への配慮を求められる。しかし、納得がいかない佐藤は橋本の楽屋をアポなしで訪れ、「制限があるなら事前に言うべきだ!」と、厳しく批判したと報じられているのだが……。〉
この日、たしかにチーフプロデューサーの男性から呼ばれました。そして、初めて橋本さんのトラウマについて知らされ、身体的な接触を控えるように要請されました。
そこで僕は彼に「ならば、具体的にはどのような接触がいけないのでしょうか」と質問をしたんです。ところが、明確な答えは返ってこなかった。結局、曖昧な言い方で誤魔化されてしまいました。
チーフプロデューサーは橋本さんの事務所に振り回されているように見えました。この後、彼は実際、僕にこう語ったのです。
身体接触の可否の基準が途中で変わったようにしか思えない
「橋本さんサイドは、撮影が始まる前の段階では“ラブシーンの場合、接触に関する制限が必要になってきます。でも、日常的な場面のお芝居については特段、接触制限の問題を気にされなくても大丈夫ですよ”と、私に言っていました。だから、佐藤さんのマネージャーさんと協議した結果、わざわざ事前に彼女との接触を控えるようお願いすることはしませんでした。今回の作品にラブシーンはありませんから」
つまり、橋本さんの事務所は当初、日常的なシーンで想定される接触はOKだとしていた。にもかかわらず、僕の指が橋本さんの顎に触れてしまったことが大きく問題視されたのです。僕からすれば身体接触の可否の基準が途中で変わったようにしか思えませんでした。なぜ、フジは現場を適切に仕切り、一貫した基準をきちんと設けることができなかったのでしょうか。
僕が楽屋を訪ねたのは、チーフプロデューサーと話をしていても埒が明かず、それなら直接、橋本さんに尋ねたほうがいいと思ったからです。『文春』には、僕が楽屋で「彼女と二人きりで話したい」と強引に迫ったと書かれていましたが、これも事実とは異なります。
その場にいたメイクさんと衣装さんが、橋本さんのトラウマをご存じないかもしれないと、はたと思い、だとすると知らせてしまうのはマズイと考え、二人に「席を外してもらってもいいですか」とお願いしただけのことです。
結果、メイクさんと衣装さんは退席し、僕と橋本さん、彼女のマネージャーさんの3人が楽屋に残りました。二人になるのはマズいと思っていたので、かえってマネージャーさんが同席してくれてありがたかった。そこで僕はこう切り出したのです。
「あなたが負っている心の傷は尊重します。でも、お芝居には綿密に計算されたものだけでなく、その場の流れの中で自然に生まれるものもある。もちろん可能なかぎり気をつけますが、夫婦役を演じる以上、絶対に接触しないとお約束することはできません」
橋本さんは頷いてくれましたが、その後、1時間半ほど楽屋に閉じこもってしまいました。撮影現場は「大変なことになった」と大騒ぎです。チーフプロデューサーに呼ばれ、彼と共に楽屋をまた訪ねると、中には彼女とその事務所の社長さんがいました。そこで橋本さんは僕にこう言ったのです。
「佐藤さんは芝居ファーストかもしれませんが、私は違います。ですから、ルールを決めませんか。肩や腕以外に触れる必要がある場合は、事前に確認をしていただきたいです」
〈橋本は2008年デビュー。13年に映画『桐島、部活やめるってよ』での女子高生役などが評価され、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した実力派女優だ。
一方の佐藤は個性派俳優として知られる。若い頃は劇団員として苦労を重ね、歳をとるごとに知名度を上げて、大ヒット映画『爆弾』での謎の中年男役により、26年に初めて日本アカデミー賞最優秀助演男優賞に輝いた。
明るくユーモラスな一面を持つが、小学生の頃から強迫性障害という心の病を抱えていたことを2年前に公表している。今回のインタビュー時は騒動の影響でめまいが止まらなかったそうで、時折、目の焦点が合わず、何かに追い込まれているように落ち着きを欠いていた。〉
妻役を演じる相手に対して、ごく普通の身体接触が制限されるのは初めての経験でした。そのため3月23日以降、日に日に他人の身体に触れることに過敏になっていきました。たとえば共演者の他の女優さんを前にしても「あれ、彼女は触ってよかったんだっけ?」と、一瞬立ち止まって考えてしまう。
おかしな話ですが、逆に自分が誰かに触れられてもビクッと驚いてしまう有様でした。
こうした状態が続くうちに、演技にブレーキがかかるようになっていきました。接触に関する余計なことばかり気になり、調子が出ないんです。すると精神的に参ってしまい、夜もあまり眠れなくなりました。
そんな状況で迎えた4月8日、ようやく仕上がった初回放送分の完パケ(完成品)を見たら、想像以上に良い出来でした。その時、僕は思ったんです。監督やスタッフ、もちろん橋本さんも含めた全出演者が頑張っているのに、僕は何をそんなにクヨクヨ悩んでいたんだろうって。