経営ビザ厳格化で高くなった日本在留のハードル
5分前に出会ったばかりの20代半ばの中国人女性は、筆者に突然そう問い質した。中国のチャットアプリ「WeChat」のコミュニティで募集されていた「日中お見合いパーティー」での出来事だ。20歳近くも年上の中年男性に、結婚の意思を確認する彼女には、とある目論見があった。
「4年前に留学で来日して、語学学校を出た後に中国系企業に就職したけど、いつかは独立して貿易業をやろうとお金を貯めていた。でも去年から、経営・管理ビザの資本金要件が3000万円以上になった。そんな大金、用意するのにあと何年かかるか。だったら日本人と結婚したほうが早いと思って……」
2025年10月、政府は経営・管理ビザの許可基準を変更。資本金の要件が従来の500万円から3000万円へと引き上げられたほか、関連分野の修士・博士・専門職学位、または3年以上の実務経験など、新たな要件も追加された。以降、同ビザの新規申請件数は月間平均で96%減となるなど、すでに大きな影響が出ている。既存のビザ保有者には最長3年間の経過措置が設けられているが、飲食店など小規模ビジネス経営者にとっては、資本金を3000万円にまで増額することができなければ、閉業・帰国が避けられない情勢だ。
さらに今年5月29日には「改正入管難民法」が成立し、これまで6000円だった在留資格の変更許可や在留期間の更新許可の申請手数料が最大10万円に、1万円だった永住許可の申請手数料は最大30万円へと大幅に引き上げられた。
外国人にとって日本在留のハードルが高くなるなか、一部の外国人の間では、日本人との結婚によって在留資格を得ようとする動きがあるようだ。
中国人を主要クライアントとして活動する行政書士が話す。
「昨年10月の厳格化以降、経営・管理ビザの申請業務の発注は激減しましたが、入れ替わりで増えてきたのが配偶者ビザの申請業務です。日本人か永住許可を持つ外国人と結婚することで申請できる配偶者ビザは、就労制限がないのが利点。就労ビザの多くが禁じる風俗店やキャバクラでの勤務や仕事の掛け持ちも可能。婚姻関係が続いている限りは更新でき、結婚後3年の日本居住歴があれば永住権や帰化の申請も可能になる。パートナーの日本人や永住者がいる人なら、『この際、結婚してしまおう』となっても不思議ではない」
冒頭のお見合いパーティーは、5月上旬に東京・港区内のイベントスペースにて立食形式で催された。会費は7000円。参加者は30人ほどで男女比はおおむね半々といったところだったが、男性のほとんどは日本人で年齢層は30代から50代までと幅広い。一方の女性の大半は中国人で、20代と30代が中心だった。
参加者の一人であるアラフォーの日本人男性が、口元を緩ませながら筆者に話しかけてきた。
「いやぁ、中国の女性って積極的なんですね」
男女とも日本人参加者が中心の婚活イベントで知り合った中国人男性に勧められ、このパーティーに参加したという彼はこの日、3人の女性から「結婚を前提にしたお付き合いを申し込まれた」とご満悦だった。会場には、彼以外にも「別のイベントで会った中国人男性に勧められた」という日本人男性が二人いた。“ごく普通”の婚活イベントから日中婚活イベントに日本人男性を引っ張ってくるのが、ひとつのスキームになっているのかもしれない。
WeChatや中国SNSの「RED」には、他にも複数、「日中お見合いパーティー」の開催情報が投稿されている。なかには参加条件として「独身証明書の提出」を掲げているものや、問い合わせをしたところ「1年以内に結婚される方優先です」と釘を刺してくる業者もあった。
結婚相談所は慣れた様子で「偽装結婚相手を探しているのね?」
婚活の動機は在留資格目的だったとしても、入籍後に真正な結婚生活を営むのであればこちらが文句を言う筋合いはないだろう。しかし、偽装結婚の仲介を公然と謳う業者もいる。
SNS上にはお見合いパーティー以外にも「結婚相談所」の看板を掲げるアカウントが複数存在する。それらのアカウントは、「経営・管理ビザを配偶者ビザに変更」、「成婚までのスピードに自信」といった惹句を競うように投稿している。
あるいは、日本人の男性会員のプロフィールを公開しているものもある。男性の年齢や収入、住所などの情報が、モザイク入りの顔写真とともに不動産の売り物件のように投稿されているのだ。
そこには50代や60代で年収も平均程度という、およそ婚活市場の中心からは外れた“在庫”も少なからず含まれている。失礼だが正直、これらの投稿で、純粋に結婚を希望する女性を集客できるとは到底、思えない。一方では、都内在住の20代半ばの男性会員のプロフィールもある。マッチングアプリ全盛の時代に、その若さで中国人専門の結婚相談所を利用して婚活に励んでいるというのも、どこか引っかかる……。
そこで筆者は、中国人女性との結婚を希望する日本人男性を装い、こうしたアカウントに一斉にメッセージを送ってみた。しかし、その多くは返信がなく、唯一の返信は「今は募集していない」というものだった。これに、男性側の会費や入会方法について尋ねるメッセージを返信してみたが、そのまま連絡は途絶えた。
取材の壁にぶち当たった筆者は、知人の中国人女性、陳さん(仮名)に協力を依頼。「日本人男性との結婚希望者」として、結婚相談所にメッセージを送ってもらったところ、24時間以内に二つのアカウントから返信があった。うち一つは、「今から電話で詳細を話したい」と積極的だ。
取材時の「設定」まで細かく考えていなかった筆者は、冒頭のお見合いパーティーで会った中国人女性から聞いた婚活の動機を陳さんに流用してもらうことにした。
WeChatの通話機能で呼び出したところ、応対したのは40代と思われる女性。開口一番、「今はどういう状態?」と尋ねてきた。