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領土の「譲歩」とは何か

2025年5月28日

ウクライナ停戦における領土に関する議論では「法的(de jure)」と「事実上(de facto)」の区別が鍵になる。ウクライナがロシアによる占領地を法的にロシア領と認めれば、それ以降はロシアによる「不法占拠」の主張ができなくなり、第三国にとっても、領土問題に関する限り対ロシア制裁の根拠が消滅する。他方、現実を事実上受け入れるだけなら、日本にとっての北方領土と同様に、ウクライナは被占領地を自国領だと主張し続けることになる。ウクライナが想定する領土の「譲歩」は、この事実上の受け入れだ。トランプ政権はロシアに対し、クリミアがロシア領だと「法的にも承認する」と提案したと伝えられたが、その承認は中国など「力による現状変更」の機会を窺う他国への青信号にもなりかねない。

 ウクライナの停戦・和平に向けたプロセスには、これまでのところほとんど進展がない。ロシアに停戦意思がないという、当初から大方の専門家が指摘してきたことを、ドナルド・トランプ大統領が認識して振り出しに戻ったということだとしたら、この数カ月は無駄だったのだろうか。

 ただし、停戦議論がさまざまになされるなかで、具体的な課題もより明確になった。たとえば、最終的にロシアとウクライナが何らかの妥結を目指す場合、領土をめぐる問題を避けてとおることはできない。そして、ウクライナが領土に関して「譲歩」を迫られるのも不可避だ。武力によってロシア軍をウクライナから完全に追い出すことが、現実的に困難だからである。

 ただし、関連する議論のなかでは、領土に関する譲歩という言葉がひとり歩きしたり、誤解やすれ違いを招くことも少なくない。それは、領土の譲歩といったときに意味するものが不明確であり、人によって想定するものが異なるからだといえる。

 例えば、トランプ政権が、「ウクライナは領土の譲歩が必要だ」と述べるのに対して、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「ウクライナ領土をロシア領だと認めることはありえない」という。真っ向から対立しているように聞こえるが、実際は、本質的な齟齬はないかもしれない。ロシア領だと法的に認めることはなくても、当面の現実を事実上受け入れることも譲歩だといえるからである。……

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