11月の中間選挙に向けて予備選が繰り広げられているアメリカで、2024年の選挙で大敗を喫した民主党内ではアイデンティティの模索や世代交代が進んでいる。そんな中、注目を集める新人議員がいる。サラ・マクブライド下院議員(35)だ。共和党がホワイトハウスと上下両院をおさえた2024年の選挙で、民主党候補としてデラウエア州から選出され、トランスジェンダーであることを公表している初の下院議員となって歴史に名を刻んだ。DEI(多様性、公平性、包括性)が否定され、大統領が「男と女しかいない」とトランスジェンダーの存在を否定する逆風の中で新たな議員生活を始めた彼女が、この1年を振り返り、「ファースト(先駆者)」であることの誇りと痛みを語った。
最優先課題は医療保険制度改革
小さい頃から政治が好きで、中学生の頃から候補者の応援演説に立ち、首都ワシントンのアメリカン大学で学生会長に選出され、オバマ政権時代のホワイトハウスでインターンを経験し、LGBTQの権利擁護団体で働き、デラウエア州上院議員をへて下院に当選した彼女にとって、いくつもの歴史的決議を行ってきた連邦議会は、まさに夢見た舞台のはずだった。だが、選挙に当選した直後からトランプ派の議員が「議会内で、トランスジェンダーの人は生まれた時の性に合致したトイレを使え」と主張し、共和党の下院議長がこれに同意し、出席した委員会では「ミスター」呼ばわりされるなど、次々と嫌がらせを受けた。
外交委員会でマルコ・ルビオ国務長官に質問するマクブライト議員
マクブライド議員はこの1年を、「痛みと前進の入り混じった1年だった」と振り返る。差別や偏見を乗り越えて、トランスジェンダー女性として下院議員に選ばれたことは間違いなく大きな前進だった。だが、時代に逆行するようなトランス差別に晒された。それでもマクブライド議員は挑発に乗らないと言う。「私の仕事はプロの扇動屋ともいうべき人々が期待する反応をしてやらないことです」。挑発に乗って反論すれば注目を集める。それが彼らの狙いであることは明らかだからだ。「議会内の女性トイレを使うなという規則には賛同しませんが、多数派である共和党が支配する下院では争う方法はありません。私にできるのは、嫌がらせをしているのは誰で、いじめられているのが誰か明確にわかるように示すこと。常軌を逸したヘイトに対して、品格と尊厳ある反応をすることで、人々は誰が正しいのかわかるはずです」と冷静な対応の理由を説明する。
実際、嫌がらせに取り合わない姿勢を保ったことで、民主党はもとより共和党議員からも徐々に信頼を勝ち得て、結果的にこの1年で彼女は他のどの新人議員よりも数多くの超党派の法案を提出できたという。同時に、反トランス法案も出されたが、法律として成立したものは一本もない。……